ISSN 2189-1621

 

現在地

DHM 018 【後編】

[DHM018]人文情報学月報【後編】

2011-08-27創刊

人文情報学月報
 ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄Digital Humanities Monthly

             2013-01-31発行 No.018 第18号【後編】 327部発行

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 ◇ 目次 ◇
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【前編】
◇《巻頭言》「計算機アーキテクチャーの変化の波を越えるために」
 (守岡知彦:京都大学人文科学研究所附属東アジア人文情報学研究センター)

◇「Digital Humanities/Digital Historyの動向」連載開始のお知らせ
 (人文情報学月報編集室)

◇《連載》「Digital Humanities/Digital Historyの動向
      ~2012年12月から2013年1月中旬まで~」
 (菊池信彦:国立国会図書館関西館)

◇《特別寄稿》「エジプト学におけるデータベースの利用例」
 (吉野宏志:筑波大学大学院人文社会科学研究科)

【後編】
◇DHイベント on Neatline公開のお知らせ
 (永崎研宣:人文情報学研究所)

◇人文情報学イベントカレンダー

◇イベントレポート(1)
「漢字文献情報処理研究会 第15回大会」
 (師 茂樹:花園大学)

◇イベントレポート(2)
「MLA2013」
 (Geoffrey Rockwell:University of Alberta)
 (日本語訳:滝浪佑紀・東京大学大学院情報学環、永崎研宣・人文情報学研究所)

◇編集後記

◇奥付

 ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
【人文情報学/Digital Humanitiesに関する様々な話題をお届けします。】
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◇DHイベント on Neatline公開のお知らせ
 (永崎研宣:人文情報学研究所)

 このたび、これまで掲載してきたイベントレポートを地図・年表上で公開いたし
ました。

http://www2.dhii.jp/dhomeka/neatline-exhibits/show/event-reports-of-dh/f...

 このWebサイトでは、ヴァージニア大学スカラーズ・ラボ[1]にて、米国議会図
書館と全米人文科学基金(NEH)の助成を受けて開発されたNeatline[2]というフ
リーソフトウェアが用いられています。Neatlineは、Webサイト上で、Webブラウザ
を用いながら地図・年表に手軽に色々な情報を皆で貼り付けられるツールとして、
本年、ハンブルクにて開催されたデジタル・ヒューマニティーズの国際会議で大き
な注目を集めました。(この発表の時には立ち見もたくさん出ていました。)ご覧
いただけばわかるとおり、日本語でもそのまま利用できます。付け加えておきます
と、ここでの利用の仕方は、開発者の意図と若干異なるところがあり、もっとバラ
エティに富んだ利用方法が可能です。オリジナルのWebサイトの方もぜひご覧くださ
い。
 余談ながら、このシステムの開発は、イェール大学で歴史学を専攻したDavid
McClure氏によって行われており、人文系の学部教育の出口を考える上でも興味深い
事例かと思われます。

<サーバシステム関連技術自体には興味のない方へ>
 もし、ご自身のプロジェクトや成果発表の仕方として、このようにして時空間情
報をWebサイトに掲載する仕組みを取り入れようとお考えで、情報技術の専門家の方
にご相談される場合には、ぜひこのシステムのことをご紹介ください。このシステ
ムは自由に利用できますので、導入費用が格段に下がる可能性があります。あるい
は、このシステムを採用しないとしても、仕様策定や見積もり作成など、一連の議
論のたたき台として大変有益となると思われます。

<このシステムの技術面に関心がおありの方へ>
 いわゆるLAMPベースのシステムですので、そういったものに手を出しておられる
皆様におかれましてはぜひ一度お試しください。なお、このNeatlineは、メタデー
タをWeb上で記述・共有・公開することを目的としたCMSであるOmeka[3]の
プラグインとして開発されたものです。Omeka自体は博物館・美術館や
図書館での資料のマネジメントを志向しているものであり、プラグインの多くも
そのような方向性のものですが、このNeatlineと同様に、デジタル・ヒューマニティーズ
の研究者も開発・運営に携わってい
ます。Omeka本体はもちろんのこと、Neatlineも含め、プラグインのほとんどが
フリーソフトとして自由に利用できます。
 こちらも含めて、色々とお試しいただくと近年のデジタル・ヒューマニティーズ
やメタデータの動向の一端が垣間見えて興味深いのではないかと思います。

[1] http://www.scholarslab.org/
[2] http://neatline.org/
[3] http://omeka.org/

Copyright(C)NAGASAKI, Kiyonori 2013- All Rights Reserved.
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◇人文情報学イベントカレンダー(■:新規イベント)

【2013年2月】
■2013-02-01(Fri):
日本文化デジタル・ヒューマニティーズ拠点 DHワークショップ
(於・京都府/立命館大学衣笠キャンパス アート・リサーチセンター)
http://www.arc.ritsumei.ac.jp/lib/GCOE/info/2013/02/-dh.html

■2013-02-09(Sat):
知識・芸術・文化情報学研究会 第2回研究会
(於・大阪府/立命館大学大阪キャンパス 大阪富国生命ビル)
http://www.arc.ritsumei.ac.jp/lib/GCOE/info/2013/02/2.html

□2013-02-11(Mon)~2013-02-16(Sat):
Documentary Linguistic Workshop focusing on working with native speaker
linguists and resource development.
(於・東京都/東京外国語大学 アジア・アフリカ言語文化研究所)
http://lingdy.aacore.jp/jp/activity/docling/2013.html

■2013-02-16(Sat):
京都大学人文科学研究所共同研究プロジェクト
情報処理技術は漢字文献からどのような情報を抽出できるか 公開シンポジウム
「すべてをコンピュータの中に(繋がってしまったデータとその未来)」
(於・京都府/京都大学人文科学研究所)
http://kanji.zinbun.kyoto-u.ac.jp/~ymzknk/kanzi/2013-02-16.html

【2013年3月】
□2013-03-15(Fri):
東洋学へのコンピュータ利用 第24回 研究セミナー
(於・京都府/京都大学人文科学研究所本館 新館)
http://www.kanji.zinbun.kyoto-u.ac.jp/seminars/oricom/

□2013-03-29(Fri)~2013-03-30(Sat):
日本地理学会 2013年度春季学術大会
(於・埼玉県/立正大学熊谷キャンパス)
http://www.ajg.or.jp/meetiing/2013spring.html

【2013年5月】
■2013-05-22(Wed)~2013-05-24(Fri):
The Music Encoding Conference 2013
(於・ドイツ/Mainz Academy for Literature and Sciences)
http://music-encoding.org/conference

■2013-05-24(Fri)~2012-05-26(Sun):
International Conference on Japan Game Studies 2013
(於・京都府/立命館大学衣笠キャンパス)
http://www.ptjc.ualberta.ca/en/Conferences/Japan%20Game%20Studies.aspx

■2013-05-25(Sat)~2012-05-26(Sun):
情報知識学会 第21回 2013年度 年次大会
(於・東京都/お茶の水女子大学)
http://www.jsik.jp/?2013cfp

【2013年6月】
■2013-06-04(Tue)~2012-06-07(Fri):
5th International Conference on Qualitative and Quantitative Methods in
Libraries
(於・イタリア/"La Sapienza" University)
http://www.isast.org/qqml2013.html

■2013-06-06(Thu)~2012-06-10(Mon):
Digital Humanities Summer Institute 2013
(於・カナダ/University of Victoria)
http://dhsi.org/

■2013-06-13(Thu)~2012-06-14(Fri):
17th International Conference on Electronic Publishing
(於・スウェーデン/Blekinge Institute of Technology)
http://www.bth.se/elpub2013

【2013年7月】
■2013-07-08(Mon)~2012-07-12(Fri):
Digital.Humanities@Oxford Summer School
(於・英国/Oxford University)
http://digital.humanities.ox.ac.uk/dhoxss/

■2013-07-08(Mon)~2012-07-12(Fri):
The 5th International Conference on Asia-Pacific Library and Information
Education and Practice
(於・タイ/Khon Kaen University)
http://www.aliep2013.com/

■2013-07-16(Tue)~2012-07-19(Fri):
Digital Humanities 2013
(於・米国/University of Nebraska)
http://dh2013.unl.edu/

Digital Humanities Events カレンダー共同編集人
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小林雄一郎(大阪大学大学院言語文化研究科/日本学術振興会特別研究員)
瀬戸寿一(立命館大学衣笠総合研究機構PD)
佐藤 翔(筑波大学図書館情報メディア研究科)
永崎研宣(一般財団法人人文情報学研究所)

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◇イベントレポート(1)
「漢字文献情報処理研究会 第15回大会」
http://www.jaet.gr.jp/meeting.html#15
 (師 茂樹:花園大学)

 漢字文献情報処理研究会は、その名前からも推察されるように、中国学を中心と
した東洋学分野におけるコンピュータ利用方法の研究・紹介を中心に、様々な活動
を行ってきている団体である。漢字文献のデジタル化や数理的分析といった人文情
報学、デジタルヒューマニティーズ的な研究だけでなく、人文科学を専攻する大学
生(文学部の学生など)に対する情報処理教育や、著作権を中心とした人文学の研
究・教育における法的問題についての共同研究など、研究にとどまらない人文学的
な活動全体への問題意識が本会を特徴づけている。その研究成果は、会誌『漢字文
献情報処理研究』だけでなく、『電脳中国学』(1999)、『電脳国文学』(2000)、
『電脳中国学II』(2002)、『電脳中国学入門』(2012)(いずれも好文出版刊)
などで公表されている。

 昨年(2012年)12月23日、東京大学大学院経済学研究科学術交流棟(小島ホール)
にて、漢字文献情報処理研究会の第15回大会(科学研究費補助金・基盤研究(B)
「情報化時代における中国学次世代デジタル研究基盤の確立」と共催)が開催され、
連休中日にもかかわらず会場が満員となる盛会であった。以下、各発表についての
簡単なレポートをしたい。

(1)大空社「文書画像〈文字〉検索エンジンソフトSAME(セイム)」デモ発表

 近年、大学や図書館、博物館などから貴重書等の文献画像データが次々と公開さ
れるようになっている。データが増えることはもちろんよいことではあるが、画像
だけでは全文検索ができないので、利用の範囲は閲覧に限られることになる。

 文献が画像で公開されるのには、恐らく次の二つの理由がある。ひとつはコスト
の問題。文献を機械可読テキスト(電子テキスト)に変換するのはそれなりにコス
トがかかるので、予算や時間の関係で画像のみの公開となることはあるだろう。そ
してもうひとつは、そもそもそれを読むこと自体が研究であるような文献である場
合。活字の文献画像から機械可読テキストにすることは、OCRのような技術的解決策
もあるが、くずし字をはじめとする手書きの文献の場合、コンピュータ処理はおろ
か人間ですら読むことが困難なものも少なくない。

 このような現況をふまえると、大空社( http://www.ozorashapub.net )のSAME
は、画像データの「文字列」(実際には部分画像の検索なので文字列に限らないが、
行をまたいだ検索など、文字列画像を意識した設計となっている)を直接検索でき
るソフトウェアとして注目される。同種のソフトウェアとしては、京都大学で開発
されているSMART-GS( http://sourceforge.jp/projects/smart-gs/ )があるが、
実は両者は同じ画像検索エンジンを使っているとのことである。

 今回のデモ発表では、SAMEの使用方法や、江戸時代の文献を使った研究の実例な
どが紹介され、ウェブサービスとしての運用など、次期バージョンに欲しい機能な
どについてたくさんの議論が交わされた。今後の発展が期待される。

(2)上地宏一(大東文化大学)「日中両言語混在テキストデータリソースの継承に
ついて」

 Unicode普及以前、多言語・多文字処理と言えば、JISコードをベースにフォント
切り替え方式で対応するという方法が一般的であった。中国語文書作成において一
時代を築いたChinese Writerもまた、かつてはそのような処理をしていた。上地氏
の発表は、Chinese Writerで蓄積されたWord文書を、UnicodeベースのWord文書に置
き換えるツールについての発表である。

 上地氏の発表に対しては、そのようなニーズが現在どれくらいあるのか、という
発表の一般性、汎用性を問う質問があった。確かにChinese Writerに限って言えば
その通りかもしれない(膨大な蓄積がある、というコメントもあったが)。しかし、
一般的に言って、OSやアプリケーションの寿命よりも、データの寿命の方が長い。
古いシステムで作成されたデータベースをどう受け継いでいくかについては、『漢
字文献情報処理研究』第11号( http://www.jaet.gr.jp/jj/11.html )で特集を組
んだこともあるが、今後のひとつの研究課題となるのではないだろうか。

 なお、このような問題とは別に、任意のフォントを一括で置換するツールとして
は汎用性があるのではないか、というコメントがフロアからあったことを付言して
おく。

(3)小島浩之(東京大学)「図書館、ミュージアム、文書館所蔵資料の利用と研究
者」
 小島氏の発表は、図書館、ミュージアム、文書館などに関する法律を紹介したう
えで、それらの機関に所蔵される資料を利用する際に研究者と機関とのあいだで交
わされるやりとりが、法律に書かれていることとは違うやりかたで行われているの
ではないか、ということを指摘するものである。つまり、法律上、利用者に保証さ
れていることであっても、両者の法律に関する知識のなさから、機関が利用者に制
限をかけ、利用者がそれに従ってしまっている、という実態があるとのことである。

 法律を知らない、法律を絶対視してしまう、できるかぎり穏便にすませようとし
てしまう、というような日本の学界にみられる傾向は、このような法律問題を論じ
る発表を聞く際にいつも感じられることである。安易な日本人論にはしたくはない
が、法律との距離感をもう少しとれるような、そのような教育、啓蒙活動が必要な
のではないか、と思う。小島氏の発表は、そのようなものへと接続する第一歩とし
て期待される。

(4)川幡太一(NTT未来ねっと研究所)「漢字符号の標準化の最新動向」

 Unicodeにおける漢字符号化の現状についての、最前線からの報告である。現在の
ところ、拡張Fまでのスケジュールが立てられており、利用可能(予定)な漢字の数
は8万字を超える。川幡氏の発表では、そのような膨大な数の漢字を管理し、適切に
符号化する方法や、符号化されたものの規格表のなかに死蔵しないようにするため
の方法について、議論がなされた。

 なお、この発表に関連するイベントとして、前日(22日)に文字研究会「第7回
ワークショップ:文字-ISO/IEC 10646とUnicodeの今-」
https://sites.google.com/site/mojiken/activities/7th_ws )が開催されてい
る。

(5)相田満(国文学研究資料館)「真面目に雑食系-論文とデータベースの間-」

 相田氏の発表は、氏がこれまで取り組んできたデータベース(観相データベース、
GISと和歌を組み合わせたデータベース)を紹介するとともに、それらがどのような
問題意識を生みだし、論文へとつながっていったかについて述べるものであった。
データベースが単なる研究効率化ツールではなく、それまでの方法では出てこなかっ
た新しい問題意識を喚起するものになりうるのか、という問題については(研究で
のコンピュータの応用には関心がある人でも)懐疑的な意見を言う人がまだ少なく
ないように思う(統計的な裏付けなどがあるわけではないが)。相田氏の発表は、
(少なくとも相田氏にとっては)新しい問題意識を喚起するものであった、という
議論であったと思う。

 また、相田氏は「マイ・データベース」と「パプリックデータベース」という用
語で対比していたが、研究者固有の問題意識にもとづくデータベースの作成と、不
特定多数の利用者を前提として公開されるデータベースの開発とを、分けて考える
べきなのか、それとも両立可能なのかという議論は、これまで何度もなされてきた。
相田氏の発表では、この問題についての結論らしい結論は述べられていなかったよ
うに思うが、このような問題提起は繰り返しなされるべきではないかと思われる。

Copyright(C)MORO, Shigeki 2013- All Rights Reserved.
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◇イベントレポート(2)
「MLA2013」
http://www.mla.org/convention/program/
 (Geoffrey Rockwell:University of Alberta)
 (日本語訳:滝浪佑紀・東京大学大学院情報学環、永崎研宣・人文情報学研究所)

○訳者まえがき
 ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
2013年1月3日から6日、米国・ボストンにて、米国現代語学文学協会(Modern
Language Association, MLA)の年次大会、MLA2013が開催された。MLAでは研究にお
けるデジタル技術の利用にも力を入れており、米国におけるデジタル・ヒューマニ
ティーズの発展にも大きな役割を果たしてきている。MLA2013においてもデジタル・
ヒューマニティーズに関わる多くのセッションが開催され、Twitterやブログも大変
盛り上がった。発表原稿そのものをブログに掲載した研究者も散見される(たとえ
ば、Bethany Nowviskie氏のブログ(*1))。その中でも、デジタル・ヒューマニ
ティーズ関連分野に長年貢献してこられたアルバータ大学のGeoffrey Rockwell教授
によるブログの参加記事(*2)を、ご本人の許諾の下、訳出しご紹介したい。なお、
日本語訳は、滝浪佑紀(東京大学大学院情報学環)と永崎研宣(人文情報学研究所)
によって行われた。訳の不適切な箇所にお気づきの際には編集室までお知らせいた
だければ幸甚である。

○MLA 2013(Geoffrey Rockwell:University of Alberta)
 ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
 以下のメモは、私が出席したボストンでのMLA学会に関するものです。メモは速記
で書かれたため、間違いがあるかもしれませんし、すべてを網羅しているわけでは
ありません。

●DHを始めるには
 ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
 私は、MLAの関連ワークショップ「DHコモンズから始めるデジタル・ヒューマニ
ティーズ Get Started in Digital Humanities with Help from DHCommons」(*3)
に参加した。それは、DHを始める方法をテーマにしたパネルから始まった。私の得
た答えとは……

「プロジェクトを開始する!」
 ・あなたがしたいプロジェクトをやっている他の人を見つける。
 ・それを知っていそうな人からテクニックを聞き出して、習得する。
 ・行こうと思う、あるいは必要な訓練の計画を立てる。
 ・プロジェクトの原型を練る。
 ・人々にそれを見せ、あなたのプランがいかに未熟かを自覚する。
 ・そのプロジェクトを破棄し、新しいものを開始する。
 ・以下、繰り返し。

 他の人も同じようなことを言っていた。すなわち、やってみないと始まらない。
プログラミング言語と同様に、それを使って何かをしようとしない限り、それを習
得することはできない。他の留意点としては……

 ・Rプログラミング言語でプログラミングを学ぶ。
 ・ACH(Association for Computers and the Humanities)(*4)に入会する。
 ・(あなたが米国にいる場合)NEHスタートアップ助成金を申請する。
 ・Omekaあるいはそれに準ずるソフトをインストールして利用し始める。
 ・Humanist Discussionのメーリングリストに参加する。
 ・THAT(the Humanities and Technology)キャンプに参加する
 ・Twitterに参加して、他のデジタル人文学者をフォローする。

●理論的なものについてよく考える
 ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
 私は、「デジタル・ヒューマニティーズと理論 Digital Humanities and Theory」
(*5)というセッション(167)で発表した。このセッションは、テキサスA&M大学
のStefano Franchiによって企画された。私は「理論的なものについてよく考える」
と題する発表を行い、事柄(things)がいかにして理論を帯びるのかについて議論
をした。私のスライドは、以下にアップされている。

https://docs.google.com/presentation/d/1Si29v3l1M-0G4xqQRv028msy_c2G003x...

 私は、理論を帯びる事柄(私たちによってなされるほとんど全ての事柄は、何ら
かの理論的想定を持っている)と、概念を伝達するためにデザインされた「理論的
なもの(theoretical things)」を区別すると結論した。ここでいう「理論的なも
の」とは、次のような特徴を持っている。

 ・操作の原理をユーザに理解させるような仕方で、それらの働きを、隠すという
よりはむしろ、示してくれる。
 ・理解を助けてくれるように操作することができる。
 ・それらがどのように理論を伝えるのかということに注意をうながすコンテクス
ト(例えばパフォーマンス)に埋め込まれている。
 ・理論的なものとして利用することを促すような、コード、文書、ラベルなどの
他の要素によって補完されている。
 ・それらの理論的な作用に注意を促しつつ、無自覚に利用した場合には抵抗・中
断するようにデザインされている。
 ・興味深い仕方でうまく機能しないことがある。(うまく機能しないときにはそ
こに興味深い課題が潜在している)

●人工知能から芸術的実践へ
 ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
 Stefano Franchiは、「人工知能から芸術的実践へ:デジタル・ヒューマニティー
ズのための新しい理論モデル」という発表を行い、人文学と情報学/計算機科学の
出会いにおけるある種の変化について主張した。

 ・人文学と「人工的なものの科学」の関係はこれまで、人文学が科学から借りて
くるという一方通行的なものだった。
 ・私たちは、芸術家がこれまで行ってきた科学との関係のあり方から学ぶことが
できる。

 Franchiは続いて、Curtis Roadの「ミクロサウンズ」という概念とその効果を例
として挙げた。Curtis Roadがしたこととは……

 1.新しいオブジェクトを選び取る。
 2.このオブジェクトを扱うことができる新しい理論的構造を用意する。
 3.この構造を扱うための新しいツールを構築する。

 Franchiは、これが、デジタルによって人文学においてなされるべきことであると
提起した。

 それでは、このようなやり方で科学が我々の課題に取り組むことを考えてみるな
ら、以下のようになる。

 1.哲学や心理学から、未解決の問題を選び取る。
 2.その問題を一つの理論に定式化する。
 3.それが正しいと確証されるまで、その理論をシミュレートする。

 人文学の役割が、興味深い問題の貯蔵庫を提供することにとどまってしまってい
る。
 これは、Geoffrey Harphamの「科学と人間性の窃盗」というエッセイを思い出さ
せる(私のブログ記事(*6)を参照)。

 その後、Franchiは一歩戻り、ポイエーシス(制作)とテオーリア(観想)の対立
について論じた。

 ・おそらく、私たちは自分たちの仕事をポイエーシスとして考えるべきである。
すなわち、物事を解釈するというよりは、物事を作り出すこととして。
 ・人文学は、解釈の真理を常に追うという罠に嵌るべきではない。

●オブジェクト指向の存在論
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 David Washingtonは、「オブジェクト指向の存在論――本のタイトルから逃れる」
という発表を行った。

 私はちょうど自分の論文が終わったばかりで集中力を欠いていたので、この発表
を十分に把握することはできなかったことをお断りしておく。彼は、Ian Bogostと、
ウィキペディアからランダムなリストを生成するLatour Litanizer(*7)について
述べていた。Bogostが言うつもりだったことを読むと、彼は「大工仕事」、あるい
は「オブジェクトに対する遠近法を照らし出す人工物の構築」としての理論的なも
のの組み立てに賛同しているということが示唆されている。

 Bogostは、「オブジェクト指向の存在論とは何か What is Object-Oriented
Ontology」(*8)という記事を書いている。

 ただ、私は〔ワシントンの発表では〕、事物(thing)とは何かに関する哲学の豊
かな歴史が視界から滑り落ちてしまっており、それゆえ〔哲学において議論されて
きたことの〕繰り返しになっていると考えざるを得なかった。

●開けゴマ
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 CWRCのSusan Brownは、「開けゴマ」(*9)というセッションを企画した。この
セッションは、相互運用性を主題としていた。私は〔このセッションで〕、テキス
トに関するプロジェクトはその電子テキストを、様々な研究ツールで利用できるよ
うにオープンに利用可能にすべきだと主張した。私たちの議論は、Storifyで以下の
ようにまとめられている。

http://storify.com/travisbrown/open-sesame-interoperability-in-digital-l...

 私は、自分達のテキストをオープンに共有することができないと感じているプロ
ジェクトもあることを認識している。私はテキストを保護して共有するための方法
を議論した。私たちの議論は以下のトピックを含んでいた。

 ・テキストのライセンス化(そして、何らかのライセンスの下にあるテキストへ
の将来的な課金)
 ・電子テキストを保護するための方法としての電子すかし技術。テキストに透か
しを入れるためには、空白のスペースを利用することができると私は示唆した。
 ・保護されたテキストにアクセスすることができる信頼し得る研究用サイトのネッ
トワーク。私は、Hathi trustがこれに似たことをグーグル・ブックスとしていると
思う。
 ・比較やデータ・マイニング、制御に使用することのできるインデックスの共有
化。これは、Stephen Ramsayが彼のタマリンド・ワークにおいて示唆したアプロー
チである。

(*1) http://nowviskie.org/2013/resistance-in-the-materials/
(*2) http://philosophi.ca/pmwiki.php/Main/MLA2013
(*3) http://dhcommons.org/mla2013
(*4) http://www.ach.org/
(*5) http://www.mla.org/program_details?prog_id=167&year=2013
(*6) http://theoreti.ca/?p=1594
(*7) http://www.bogost.com/blog/latour_litanizer.shtml
(*8) http://www.bogost.com/blog/what_is_objectoriented_ontolog.shtml
(*9) http://www.cwrc.ca/project_news/open-sesame-interoperability-in-digital-...

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 配信の解除・送信先の変更は、
    http://www.mag2.com/m/0001316391.html
                        からどうぞ。

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◆編集後記(編集室:ふじたまさえ)
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 今号もたくさんの方からご寄稿をいただきありがとうございました。

 2013年、最初の人文情報学月報は新年にふさわしく、新しい連載を開始すること
ができました。新機軸を加えたことから、今号より前編・後編の2本構成でお届けす
ることになりました。前編で論考を、後編ではイベント関連の話題というように大
きく内容を分けています。人文情報学を新しく始めようという方も、自分が今まで
耕し続けた研究が人文情報学そのものであるという方にも参考にしていただき、皆
さまの研究の一助となれば幸いです。

 今号のポイントの一つは、人文情報学におけるデータベースのあり方とは何か、
という点でしょう。長年作成されているものであってもどういう対象を扱うデータ
なのか、また、データベースを使う対象が誰なのかという点において、まだまだこ
れから議論を進めるべき点が多いということがわかりました。私個人の一番身近な
データベースというと図書館に関するものがありますが、図書館システムの発展に
伴い、そのあり方まで考える必要は現実には少なくなっています。しかし、人文情
報学のこのような議論を目の当たりにして、本来であれば図書館の利用者がどう使
えるのかという観点も必要なのだな、と改めて考えなおしました。

◆人文情報学月報編集室では、国内外を問わず各分野からの情報提供をお待ちして
います。
情報提供は人文情報学編集グループまで...
       DigitalHumanitiesMonthly[&]googlegroups.com
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人文情報学月報 [DHM018]【後編】 2013年01月31日(月刊)
【発行者】"人文情報学月報"編集室
【編集者】人文情報学研究所&ACADEMIC RESOURCE GUIDE(ARG)
【E-mail】DigitalHumanitiesMonthly[&]googlegroups.com
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【サイト】 http://www.dhii.jp/

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