ISSN 2189-1621

 

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DHM 049 【前編】

2011-08-27創刊                       ISSN 2189-1621

人文情報学月報
 ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄Digital Humanities Monthly

             2015-08-28発行 No.049 第49号【前編】 580部発行

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 ◇ 目次 ◇
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【前編】
◇《巻頭言》「美術館・博物館等のウェブサイトの評価をめぐって」
 (古賀崇:天理大学)

◇《連載》「西洋史DHの動向とレビュー
  -第一次世界大戦100周年をめぐるデジタルヒューマニティーズの最近の成果と
                               今後の課題」
 (菊池信彦:国立国会図書館関西館)

◇《連載》「Digital Japanese Studies寸見」第5回
 「英語による学術情報発信:人間文化研究機構のEnglish Resource Guide for
            Japanese Studies and Humanities in Japanをもとに」
 (岡田一祐:北海道大学大学院文学研究科専門研究員)

【後編】
◇人文情報学イベントカレンダー

◇イベントレポート(1)
「デジタル人文学を通した知的生産活動の再考」
 (横山説子:メリーランド大学英文学科博士課程)

◇イベントレポート(2)
「第107回 人文科学とコンピュータ研究会発表会 参加報告」
 (永崎研宣:人文情報学研究所)

◇編集後記

◇奥付

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【人文情報学/Digital Humanitiesに関する様々な話題をお届けします。】
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◇《巻頭言》「美術館・博物館等のウェブサイトの評価をめぐって」
 (古賀崇:天理大学)

 前置きの話から始める。筆者は図書館司書資格のための必修科目のひとつ「図書
館情報技術論」において、「さまざまなウェブサイトの評価」を課題レポートのひ
とつとしてきた。この課題のもともとのねらいは、「図書館における『拡張された
コレクション』としてウェブサイトを捉えることができる」[1]とすれば、「図書
館コレクションへの評価」との共通点・相違点を意識しつつ、ウェブサイト評価を
いかに行えるか、図書館員としての視点を体得してもらう、という点にある。ただ
し実際には、図書館のことにとどまらず、履修者自身がウェブサイトの信頼性とそ
の評価基準を体得し、今後の学習や生活の上で役立ててもらう、という点に貢献で
きればと考えている。2014年時点での実践報告は、「Code4Lib JAPAN 2014カンファ
レンス」(2014年9月、鯖江市図書館)にて行い、報告ファイルも公開している[2]
。なお、この科目でのもうひとつの課題レポートとしては、「図書館自身のウェブ
サイトの評価」を提示し、特にレファレンス(調査相談)サービスについての情報
や、図書館自身の運営にかかわる情報(年報や利用状況の統計データなど)の多寡
を意識してもらうように努めている。

 さて、2015年度の「図書館情報技術論」の授業でも「さまざまなウェブサイトの
評価」を課題レポートとして提示したが、実際のレポートとしては美術館・博物館
のウェブサイトを取り上げたものが複数見られた。これは、履修者の中に生涯教育
専攻の学生がおり、この領域の一環として美術館・博物館を捉える意図があった、
というのが背景のひとつとして考えられよう。ただレポートを見てみると、その内
容の優劣は措くとして、美術館・博物館として、ウェブサイトを介してどのような
情報を発信しているか、また発信内容が利用者・研究者や運営母体(公立の館であ
れば設置する国ないし自治体)にきちんと届いているか、気にならずにはいられな
かった。

 ここからが本題であるが、美術館・博物館等のウェブサイトについては、どのよ
うな点が評価のポイントになるだろうか。まず、基本情報としての利用案内(開館
時間・カレンダー、地図・アクセス情報、入館料金など)や展覧会情報を分かりや
すく提示するのは当然のことと言える。また、2016年4月に施行される「障害者差別
解消法」も踏まえ、ハンディキャップのある人にも理解できる情報発信を行うこと
も求められる[3]。ただ、美術館・博物館等は決して集客・観光の施設にとどまる
のではなく、自ら収集してきた資料やコレクションについて広範囲にわたって理解
を促し、これらのもつ文化的・社会的価値について認識を深めてもらうのも、重要
な役割のひとつと言える。その意味では、「資料・コレクションのデータベース」
を構築し発信すること、またデータベース上の項目(メタデータ)として記述すべ
きことに、館の運営者も利用者も、もっと注目していく必要があるはずである。

 いくつか例を挙げると、「資料・コレクションのデータベース」という点で日本
で最も充実した事例のひとつと思われるのが、国立西洋美術館である(
http://www.nmwa.go.jp/jp/ )。このデータベース(「所蔵作品」欄よりアクセス)
の特色としては、「西洋美術館」として海外からの利用も意識されていることもあ
ってか、各作品の来歴、展覧会歴、文献歴が詳細に記述されている点にあり、美術
史等での研究にも堪えるレベルとなっている[4]。また福岡アジア美術館ウェブサ
イトの「コレクション」( http://faam.city.fukuoka.lg.jp/collection/clt_index.html
)にも「所蔵品検索」の機能があり、種別、国・地域、ジャンル、素材・技法とい
った項目でも検索が可能で、同館での所蔵作品につき「国・地域ごとの作品の特色」
や「同じ素材や技法でも国・地域のよってどう違うか」などを確認できるようにな
っている。他方、さまざまな館のウェブサイトにおいて、データベースにアクセス
可能であっても、各項目の記述が不十分な事例もよく見られることである。

 この『人文情報学月報』の第48号(2015年7月)での巻頭言(人文情報学研究所・
永崎研宣氏)を見返すと、2015年6月のアート・ドキュメンテーション学会年次大会
における、国立西洋美術館の馬渕明子館長による講演内容がまとめられている。つ
まり、「国立美術館が主導して、高い精度で構築した美術情報を効果的・効率的に、
国内外へと広く継続的に提供していくための、人材育成や予算措置までも含めた包
括的な将来設計」を、馬渕館長は「国立美術館の野望」として掲げたのである。こ
れはまさに、美術館におけるデータベースや「デジタル・アーカイブ」を通じての
国内外への発信の話であり、博物館などにも共通することである。これを「国立美
術館(あるいは国立博物館を統括する国立文化財機構)の主導」でどこまでできる
かは措くとして、美術館・博物館等における情報の構築のあり方、また発信のあり
方は、これらに対する「評価」と切り離せないはずである。

 このように、「デジタル・アーカイブ」が喧伝される現状だからこそ、美術館・
博物館等における所蔵作品だけでなく、それをデータベース化したものに対しても
「目利き」が求められるし、「よりよい情報発信のあり方」に向けての提言・政策
と実践がいっそう必要となるだろう。また、ウェブサイト全般や図書館のOPACなど
と同様に[5]、美術館・博物館等のウェブ上での情報発信に関する「評価基準」の
策定も求められるところである。

[1]この観点については以下のテキストの記述を参照。高山正也、平野英俊(編)
『図書館情報資源概論』樹村房,2012,p.74-76(岸田和明執筆).また、筆者自身
による、この観点を意識した「図書館資料論」(現行カリキュラムでの「図書館情
報資源概論」の前身)の講義資料(広島文教女子大学司書講習)は以下で公開。
http://harp.lib.hiroshima-u.ac.jp/h-bunkyo/metadata/12213
[2]古賀崇「図書館司書課程授業におけるウェブサイト評価の実践の試み」
http://www.slideshare.net/takashikoga5439/c4-l14-koga
[3]有益な情報源のひとつとして以下を参照。「情報バリアフリーポータルサイト」
(日本ウェブアクセシビリティ普及ネットワーク) http://jis8341.net/
[4]国立西洋美術館のデータベースの活用事例を、館の側から記した例として、以
下を参照。川口雅子「国立西洋美術館の情報戦略:所蔵作品データベースを中心に」
水谷長志(編著)『MLA連携の現状・課題・将来』勉誠出版,2010,p.163-175.
[5]「ウェブサイト全般や図書館のOPAC」に関する評価基準の記述を含めたテキス
トの例として、以下を参照。竹之内禎(編著)『情報サービス論』学文社,2013.

執筆者プロフィール
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古賀 崇(こが・たかし)1974年福岡県柳川市生まれ。国立情報学研究所助手・助教、
京都大学附属図書館研究開発室准教授を経て、2012年より天理大学人間学部総合教
育研究センター(図書館司書課程)准教授。「政府情報へのアクセス」を中心に、
図書館・文書館・記録管理(文書管理)をまたにかけ研究・教育に携わる。近著に
『デジタル・アーカイブとは何か:理論と実践』(共著、勉誠出版、2015)、『情
報の評価とコレクション』(共著、勉誠出版、2015年秋刊行予定)など。
http://researchmap.jp/T_Koga_Govinfo

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◇《連載》「西洋史DHの動向とレビュー
  -第一次世界大戦100周年をめぐるデジタルヒューマニティーズの最近の成果と
                               今後の課題」
 (菊池信彦:国立国会図書館関西館)

 ここ数年、第一次世界大戦に関するデジタルアーカイブの構築がヨーロッパで盛
んにおこなわれている。その理由はもちろん2014年から2018年までが第一次世界大
戦100周年に当たるからであり、その歴史的記憶の再記憶化(コメモラシオン)と記
録の掘り起こしの動きは、ヨーロッパで現在浸透しつつあるDHにとって、恰好のテ
ーマだからであろう。筆者は以前にブログで第一次世界大戦に関するDHプロジェク
トやリソースをまとめたことがあったが[1]、その後のいくつか動きがあったので、
ここでまとめて紹介しておきたい。

 7月29日に、Europeana 1914-1918[2]の搭載コンテンツのクラウドソーシングに
よるテキスト化プラットフォームTranscribe e1914-1918[3]の紹介記事が、
Europeanaのブログに掲載された。Transcribe e1914-1918はまだプロトタイプ版の
ものだが、OCRが難しい当時の史料――たとえば、ドイツ語のカレント(Kurrent)
という筆記体ベースの字体を使用した印刷物や兵士らの手書きの文書史料など――
のテキスト化を共同で行う環境を提供するものである。7月上旬には、ベルリンにあ
るプリモ・レーヴィギムナジウムで学生らを対象にしたワークショップが開催され
ており、そこでのテキスト化の成果もTranscribe e1914-1918では公開されている。
2016年以降も各地で継続的なワークショップやテキスト化コンペ(トランスクライ
バソン/transcribathon)の開催を行う予定という。Europeana1914-1918は、図書
館などの所蔵資料のデジタル化資料ではなく、各家庭に眠っていた史料の収集を行
った結果作成されたものであるため、今後のテキスト化の進展次第では、第一次世
界大戦の社会史研究への大きな貢献が期待されるだろう。

 クラウドソーシングを利用したプロジェクトには、ヨーロッパだけではなく、オ
セアニアでも実施が予定されている。ニュージーランドのワイカト大学では、第一
次世界大戦期のオーストラリアおよびニュージーランドの合同軍(Australian and
New Zealand Army Corps:ANZAC)の記録14万点を使い、それらのデジタルデータか
ら、兵士の氏名や近親者、職業などのテキスト化を行うとしている。今年8月中には、
一般市民の研究参加用プラットフォームZooniverseでプロジェクトサイトの公開が
予定されているという[4]。

 7月31日には、ドイツのバイエルン州立図書館が、第一次世界大戦とドイツ11月革
命に関する情報検索サイト“Themenbibliothek Erster Weltkrieg und
Novemberrevolution”[5]のベータ版を公開した。同サイトでは同館の所蔵する第
一次世界大戦史料のほか、第一次世界大戦に関する研究文献の書誌情報等が提供さ
れており、その数は5万タイトル以上、うち1300件についてはデジタル化公開されて
いる[6]。また、書誌情報の提供だけでなく、史資料の入手も可能という。

 上で述べた研究関係のほかに、教育用のリソースとして、4月2日にヨーロッパの
歴史教育者協会Euroclioが、自身の運営する歴史教育リソースポータルサイト
Historianaで、第一次世界大戦に関する4つの教育コンテンツを追加公開した[7]。
Historianaは、ヨーロッパの学生向けに、各国での歴史教科書の「副読本」となる
ようなコンテンツの提供を目的としたものである。とはいえ、Historianaは単一の
「ヨーロッパの物語」を提供するようなものではなく、史実を様々な立場・角度で
考察できるようにすべく設計されている。このほど公開された第一次世界大戦関係
のコンテンツには、前線にあった兵士と銃後にあった家族がやりとりした絵葉書や、
新聞などに掲載された風刺画を史料として取り上げている[8]。

 また、教育用リソースとは別に、EuropeanaとGoogle Cultural Instituteとの共
同展示“To My Peoples!”[9]にも言及したい。公開は昨年8月と少し古いが、オ
ーストリア国立図書館が2014年3月から11月に同館で開催した同名の展示をもとに、
前述のEuropeana 1914-1918のプロジェクトの一環として作成したものである[10]。

 以上見てきたように、史料の収集と提供環境の開発、史資料の情報検索ツールの
公開、史料を利用した教育現場での活用およびウェブ展示を通じた一般市民への発
信が、いまなお継続的に行われている。ここで紹介した以外の様々なツールやリソ
ースは、筆者のブログのほかにも、第一次世界大戦オンライン百科事典
1914-1918onlineで地域別に[11]、そしてドイツの歴史学ポータルhistoricum.net
で研究テーマ別にまとめられている[12]。

 一方で、それらで紹介されているツールやデジタル化史資料はあまりにも多く、
第一次世界大戦100周年をめぐるDHの一連の成果は「バブル」のようですらある。第
一次世界大戦の記憶と記録に取り組んだDHの成果が、第一次世界大戦史研究にいか
なる貢献を果たすのか、ヨーロッパ内外の歴史認識にどのような影響を与えるのか、
それを問うことがDHの今後を占ううえでの試金石となるだろう。

[1]“#WWI に関するDHプロジェクトまとめ / Roundup of DH projects on #WWI”.
歴史とデジタル. https://historyanddigital.wordpress.com/wwi/ ,[access
2015-08-18]
[2]Europeana 1914-1918. http://www.europeana1914-1918.eu/en/explore
[access 2015-08-18]
[3]Transcribe e1914-1918. http://www.transcribathon.eu/ , [access
2015-08-18]
[4]Waikato University professor needs help to transcribe World War I
documents.
http://www.stuff.co.nz/national/last-post-first-light/70988391/waikato-u... ,
[access 2015-08-18]
[5]“Themenbibliothek Erster Weltkrieg und Novemberrevolution”
http://www.chronicon.de/erster-weltkrieg/ , [access 2015-08-18]
[6]“The Bavarian State Library's new WWI digital research tool launched
”. 1914-1918 online. 2015-08-07.
[7]New Historiana learning activities available!. Euroclio. 2015-04-02.
http://www.euroclio.eu/new/index.php/innovating-history-education-for-al... , [access 2015-08-18]
[8]Historiana. http://la.historiana.eu/la/ , [access 2015-08-18]
[9]"To My Peoples!". Google Cultural Institute.
https://www.google.com/culturalinstitute/u/0/exhibit/to-my-peoples/gQyspHgL
, [access 2015-08-18]
[10]“Teaming up with Europeana to bring Europe’s culture online”.
Google Europe Blog. 2014-08-01.
http://googlepolicyeurope.blogspot.jp/2014/08/teaming-up-with-europeana-... ,
[access 2015-08-18]
[11]“First World War Websites”. 1914-1918online.
http://www.1914-1918-online.net/06_first_world_war_websites/index.html ,
[access 2015-08-18]
[12]Erster Weltkrieg im Internet. historicum.net.
https://www.historicum.net/recherche/webguide-geschichte/erster-weltkrieg/
, [access 2015-08-18]

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◇《連載》「Digital Japanese Studies寸見」第5回
 「英語による学術情報発信:人間文化研究機構のEnglish Resource Guide for
            Japanese Studies and Humanities in Japanをもとに」
 (岡田一祐:北海道大学大学院文学研究科専門研究員)

 今回は、いささかおもむきを変え、英語による日本研究に関する学術情報・資源
の発信について私見を述べてみたい。稿者は、人間文化研究機構の作る、英語で利
用できるWeb研究情報資源に関するガイドの編纂を担当することとなり、今年2015年
2月に公開された[1]。手前味噌で恐縮ではあるが、このガイドの編纂を通じて、
英語によって日本研究に関する学術情報や資源の発信をすることについて考える機
会を得た。稿者は、もちろん、このガイドで取り扱ったほとんどの分野で素人に過
ぎず、それでなにか語りうるほどのたいそうな考察ができたわけでもない。英語に
よる情報発信の必要性の説かれてすでに数十年を閲し、議論も積み重ねられてきた
ところに詳しいわけでもなく、情報発信を担当して頭を悩ませる方々の苦労も省み
ない、所詮は謬見にまみれた考えにすぎないのではあるが、あえて贅言を弄するの
は、それゆえにこそ英語での学術情報や資源を求める立場にわが身を擬しやすく思
うからである。以下、このガイドの構成などを紹介しつつ、一般的な問題として英
語による日本研究に関する学術情報・資源の発信を検討したい。

 このガイドは、人間文化研究機構の事業として、日本研究に関する、また日本の
人文学における学術情報・資源、それもインターネット上で英語で使えるものをま
とめたものである。おおまかには、(1)日本研究についての資源を有する機関、
(2)日本研究に関する情報資源、および(3)日本における人文学の成果等の資源
を対象としている。(1)としては国立の博物館や研究施設・団体、各種のデジタル・
ライブラリやアーカイブズ、日本国外の日本研究機関、(2)や(3)としてはデー
タベースやナレッジベース類を中心としている。

 このガイドの編纂で、稿者は、学術情報・資源の選定および解説文の起草を担当
した。選定にあたっては、人間文化研究機構より上記の対象が方針として示され、
委細は稿者に一任されたので、日本研究に関するはばひろい資料を集めることを目
指した。具体的には、英語で、かつインターネット上で利用可能であることが基本
条件であったことから、日本語はできないか、あるいは日本語で準備された資料が
利用しにくい層が日本に関する資料を集める際に、学術的に信頼できる資料に手軽
に到達することができるということをひとまずの目標とした。なお、英語版ウィキ
ペディアをくわえたのはそのためで、このようなガイドを見ずともウィキペディア
は勝手に参照されると思うし、学術的な正確性の担保は期待できないところだから、
わざわざ入れるまでもないとのご意見もあろうかとは思うのだが、あんがいにこま
かい資料へのリンクが豊富で、このようなひとりで作るガイドでは補いきれないと
ころを補完するのによいと思ったのである、閑話休題。

 そのような次第であるから、このガイドでは、英語だけで情報が扱えるようにし
ているウェブサイトを紹介することがいちばん望ましいと考えた。日本研究者であ
れば、難易の差はあるとはいえすでに情報を得る手立ては持っているはずであるし、
日本語の情報で足りるはずである。それに対して、日本語ということばを解さず、
また日本というものをどうやって調べていいのか分らないひとたちというのは、世
界的に見て、圧倒的に数が多い。これはけして初学者に限られるものではなく、他
の専門の研究者でも日本に関して調べることになるときは少なくないものと思う。
そのようなひとびとが日本について調べようとしたときに、日本語で読み解きをし
なければならないというのは、単に不親切であるのみならず、数少ない英語による
資料や文献に対して、質のよしあしにかかわらず、過剰に依存させることに繋がる
のである(これは、CiNiiで各地の大学の紀要ばかりが無料で入手できたり、重要な
資料がデジタル・ライブラリやアーカイブズで後回しにされたりしたときに、日本
のなかでも起ったことであろう)。とくに稿者の専門とする日本語は世界中の言語
と比較される機会のある言葉であり、英語文献のとぼしさは日本語の特徴を見誤る
ことに直結している。これは言語にかぎらず、およそ世界的に比較されるときは必
然的に起る現象ではなかろうか。そのような現状を考えるとき、利用者登録等の特
段の手続きを要せず、媒介言語のみで情報が入手できることは重要な条件だと考え
たのである。結果的には英語版の操作画面がないウェブサイトもいくつか紹介する
こととなったが、画像中心で日本語が理解できなくても楽しめると判断したものに
限定した。これは、情報を入手するという目的には反するが、画像は親しみやすい
素材であり、そのような要素も初学者には興味深いかと考えたためである(たとえ
ば、ukiyo-e.orgの管理者は、浮世絵の愛好者であるが、日本語を解さないと聞く)。

 また、ガイドを作るうえでの事情もあった。日本研究をじっさいにすでにことと
しているひとであれば、どこになにがあるかわざわざ素人が案内する必要もないし、
単にウェブサイトを網羅するだけであれば、欧米の大学図書館の日本あるいは東ア
ジア担当の図書館員の方々が有用なリンク集を複数構築なさっているので、いまさ
ら出る幕もない。残念ながら、使い方の案内が必要な学術情報・資源もあったのは
否めない。くわしくはガイドを見ていただきたいのだが、余力がなかったのであろ
うか、操作上に後一歩の配慮をいただけたらと願うウェブサイトには、おせっかい
ではあろうけれども、簡単な使い方の説明を加えた。利用者が見たいのはクレジッ
トではなく情報資源である。クレジットは資料が使えてはじめて見てもらえるので
ある。目次も索引もない本で著者の経歴がうやうやしく掲げられていたら、ひとは
どのように思うだろうか。また、使いやすさに関しても説明を加えることで、ほか
のリンク集との差別化を図ろうとしたという事情もある。

 もちろん、英語で情報発信する意義は、それぞれの分野で異なるものと思われる
ので、一般的な回答は使い途に欠けるものかもしれない。また、英語で発信するだ
けでは足りず、東アジアの諸言語あるいはさらなる西洋諸言語における発信をない
がしろにするのも望ましくはない。しかしながら、英語での情報発信がひとつの試
金石になっているのは疑うべくもないだろう。日本研究にはそれなりの厚みがあり、
いまのところ関心が持たれている分野である。それを世界のひとびとと共有し、さ
らなる研究の進展に役立てるということは、日本研究の深化とはまたべつに、必要
とされていることであるのに違いないと思うのである。

[1] English Resource Guide for Japanese Studies and Humanities in Japan:
http://www.nihu.jp/sougou/kyoyuka/japan_links/

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 続きは【後編】をご覧ください。

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人文情報学月報 [DHM049]【前編】 2015年08月28日(月刊)
【発行者】"人文情報学月報"編集室
【編集者】人文情報学研究所&ACADEMIC RESOURCE GUIDE(ARG)
【 ISSN 】2189-1621
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