ISSN 2189-1621

 

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イベントレポート 国際シンポジウム「デジタル文化資源の情報基盤を目指して:Europeanaと国立国会図書館サーチ」

◇イベントレポート
国際シンポジウム「デジタル文化資源の情報基盤を目指して:Europeanaと国立国会
図書館サーチ」
http://www.ndl.go.jp/jp/event/events/20150122sympo.html
 (永崎研宣:人文情報学研究所)

 2015年1月22日、国立国会図書館にて、Europeana執行委員でありCollections
TrustのチーフエクゼクティブであるNick Poole氏を招いての国際シンポジウム「デ
ジタル文化資源の情報基盤を目指して:Europeanaと国立国会図書館サーチ」が開催
された。事前受付で満員御礼になるという大変な盛況のなか、生貝直人氏による基
調講演「オープンデータの潮流とEuropeana」に始まり、Nick Poole氏のEuropeana
紹介、そして、NDLサーチやそれと連携する各機関からの登壇者が続き、最後は原田
氏の司会になるパネルディスカッションで幕を閉じた。全体として盛りだくさんの
内容であり、それぞれの機関の目指すところや苦労話を聞くことができ、個人的に
は興味深いシンポジウムであった。これに関してはいずれ国立国会図書館発のいず
れかの媒体で公表されることが想定されるので、詳細はそちらに譲るとして、ここ
では、個人的に印象に残った点を述べていきたい。

 Europeanaに関しては、我国でもすでに色々なところで議論されてきている。特に
基調講演のプレゼンターを務めた生貝氏は「日本版ヨーロピアーナ」を提唱し各地
で精力的に講演をこなし、本メールマガジンも含め様々な媒体に執筆しているので
ぜひご参照されたい。

 さて、Poole氏による講演については、あくまでも筆者の個人的な印象として語ら
せていただくと、Europeanaはとにかくデータも展開も圧倒的に大規模であり、どう
してもそこに目が行きがちだが、Poole氏が特に強調していたのは、「パートナーと
ともに新たな価値を創り出すプラットフォーム」という点であり、様々な文化資源
の提供はそこを目指すものであるということだった。個人的に話した中で印象的だ
ったのは、オープンデータを前提とした上でサービス料を徴収するモデルについて、
やはりEuropeanaのコンテンツそのものではなく、例えば翻訳サービスなど、コンテ
ンツから生み出し得る固有のサービスを提供することで実現することを考えている
ということであった。筆者自身は完全に学術系なのでやや遠い話ではあるのだが、
あくまでもオープンデータを踏まえた上で、マネタイズにまで結びつけることで持
続可能な枠組みを目指すという姿勢は、我国でも大いに参考とすべきところだろう。

 一方の国立国会図書館サーチについては、筆者も色々な形で利用しており、まだ
色々と問題点はあるものの、提供しているWeb APIを通じて、別な組織や個人により
いくつかのWebサービスが立ち上げられたり、パブリックドメインの画像を用いた電
子出版が行なわれたりするなどしてきている。このことは、直接ユーザに働きかけ
ていくだけでなく、むしろ、Webサービスの提供者等の媒介者のような人々への働き
かけにより、国立国会図書館自身が宣伝しなくとも、媒介者が勝手に宣伝をしてく
れるという流れが徐々にできつつあることを示しており、今後の展開を期待させる
ところである。連携各機関からの登壇者は、どちらかというと国立国会図書館サー
チにデータを提供している側の方々であり、それぞれの苦労話が聞けた点はとても
興味深いことであった。特に、大向一輝氏による、ビジョンとミッションを明確に
打ち出すべきという主張はCiNiiの現状ともあいまって、説得力のある提言であった
ように思われる。

 全体の感想としては、国立国会図書館サーチもまた、上述のごとく、Europeanaが
目指すところの新しい価値の創造というところをある程度は実現できているように
も思われる。というのは、Europeanaのみならず、学術向け大規模リポジトリたる米
国Hathitrustや統合検索サービスである米国デジタル公共図書館など、いずれも、
自らをベースとした新しい取組みを支援するための枠組みを提供しつつあるが、国
立国会図書館でも「NDLラボ」を運用しており、そこでは、手前味噌で恐縮だが、近
代デジタルライブラリーの共同電子翻刻を行なうシステム「翻デジ2014」など、外
部の取組みをうまく展開させるような枠組みが提供されているからである。さらに
付言するなら、欧米でのそうした取組みはデジタル・ヒューマニティーズの研究動
向との深い関わりの中で進められつつある。また、一方で、Europeanaにもまだ既知
の技術的な問題が十分に解決されていないような状況もある。(詳しくは、筆者の
ブログ記事 http://d.hatena.ne.jp/digitalnagasaki/20141211/1418312081 を参照
されたい。)というようなことで、国立国会図書館の取組みは、個別にはまだまだ
色々な課題が感じられるものの、全体としては欧米のそれに比べるとそれほど遜色
ないようにも思われるので、関係者の皆様には、それなりの自信を持っていただけ
ると良いのではないかと思った次第であった。

 なお、当日に流れた関連するツィートは以下のURLにてまとめておいたのでこちら
も参照されたい。
 http://togetter.com/li/773108

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