ISSN 2189-1621

 

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◇イベントレポート(3) 「Europeana Tech 2015」

◇イベントレポート(3)
「Europeana Tech 2015」
http://www.europeanatech2015.eu/
 (永崎研宣:人文情報学研究所)

 2015年2月12-13日、フランス国立図書館にて、Europeana Tech 2015が開催された
(Europeanaについては、詳しくは http://current.ndl.go.jp/ca1785 等を参照さ
れたい)。250人以上の参加者を集めたこの国際会議は、ヨーロッパ中から集まった
デジタル文化資料Geekによる報告会、という雰囲気であった。ヨーロッパの主要な
文化機関の大物がいたかと思えば、Europeanaのオープンデータを活用した新しいサ
ービスを売り込みにきている一人ベンチャー企業の社長さんや、そういった企業に
投資したいベンチャーキャピタルの人など、なんとも言えない熱気に包まれていた。
そうした中に、国立情報学研究所(NII)の高野明彦教授や、米国デジタル公共図書
館(DPLA)のExecutive Director 、Dan Cohen博士など、幾人かの欧州外からの参
加者の姿もあった。

 一連の発表では、技術的な話がある程度の割合を占めていたが、それと同等かそ
れ以上に重視されていたのは、いかにして、この文化遺産ハブとしてのEuropeana
を中心とした文化遺産コミュニティを形成していくか、という点にあったようだっ
た。カンファレンスの全体の報告については、「カレントアウェアネス・ポータル」
http://current.ndl.go.jp/node/28031 )にいくつかのブログがリンクされてい
るのでそちらに譲るとして、ここでは筆者が気づいたいくつかの個別の点について
の報告をさせていただくことにする。

 多くの報告においてキーワードになっていたのは、クラウドソーシング、オープ
ンデータ、地図上へのマッピング、といったものであった。デジタル資料に情報が
不足するところはクラウドソーシング、すなわち、多くの人々に実作業へと参加し
てもらうことによって補い、より便利なサービスを提供するために補助システムや
別のシステムを構築したりする場合にはオープンデータとして公開されているデー
タを再利用し、必要に応じて現代の地図や古地図上にアイテムをマッピングする、
あるいは古地図を現代に地図にマッピングする、といった形で話が展開されていた。

 たとえば、一時期、大英図書館が19世紀の書物から100万点以上の画像をFlickrに
公開したことが話題になった( http://current.ndl.go.jp/node/25080 )。しかし、
これらはメタデータが十分でないためにWikimediaに掲載することができない。一方
で、地図が大量に含まれているため、それを50000件抽出して、クラウドソーシング
と自動処理を組み合わせて現代の地図上にマッピングしつつメタデータを充実させ、
Wikimediaに掲載するという取組みが進められているという。また、いわゆるゲーミ
フィケーションのような位置づけで、ユーザにメタデータを楽しくどんどん追加さ
せつつ評価もさせていくシステム、ウェールズ国立図書館における19世紀の地図上
での位置情報参照(ジオリファレンス)やテクスト起こしのクラウドソーシングプ
ロジェクト等、クラウドソーシングは、問題解決のための現実的で有力な選択肢の
一つとなりつつあるようだった。ヨーロッパの例ではないが、今回ビデオ会議シス
テムで参加したTim Sherratt博士によるオーストラリア国立図書館のTroveに関する
講演では、同図書館で公開されている過去の新聞記事のOCRテキストの修正に多くの
人々が参加していたという報告をしていたことも紹介しておきたい(なお、
Sherratt博士のこの種の活動については本メールマガジンの過去記事も参照された
い。 http://www.dhii.jp/DHM/dhm38-2 )。

 オープンデータとしての面白さという観点からも色々な活用例が紹介されていた
が、特に筆者が気になったものは、“Let's Go Euroepana”
http://europeana.nialloleary.ie/index.php というサイトである。これは、完全
にEuroepana APIに依拠し、検索毎に戻ってきたデータを見やすい形に処理して表示
するというものである。地図、年表、グラフ表示など、現在普及しているWeb技術を
これでもかとばかりに盛り込んでEuropeanaのコンテンツを本家サイト以上に見やす
くわかりやすく表示するこのサービスは、典型的な技術をうまく組み合わせればで
きてしまう教科書的な例ではあるものの、その作り込みの情熱、そして会社を立ち
上げてそれに取り組んでいるというところに、Europeanaが徐々に根付きつつあるこ
とを実感させてくれた。また、Linked TVというプロジェクトでは、テレビ番組表と
Europeana APIをリンクしてテレビを見ながらEuropeana上の関連情報を手元のタブ
レットに表示させるというサービスを展開しようとしているようだった。ここでは、
その関連情報のセレクションを改善するところで独自の技術を追求しているという
ことだった。ノルウェーのラジオ番組のメタデータを作成公開しているというプロ
ジェクトでは、メタデータをきちんと作成した上でオープンにすることで色々な他
の情報とどんどん関連づけていって楽しいコンテンツを増やしていく、という話を
していた。

 他にも興味深い発表は色々あったが、本稿での紹介はとりあえずこの辺りで締め
くくりたい。この会議自体は、あくまでも欧州の事業についての会議であり、たと
えば多言語主義と言った時にしばしば出てくるのはEUにおける非公用語の扱いの問
題であり、必ずしもアジア等の別の地域の言語までもが問題とされるわけではない、
ということをはじめ、問題意識の次元がややヨーロッパローカルに向いている傾向
は否めない。それでもやはり、オープンデータとすることで自由な利活用の環境を
実現し、クラウドソーシングを含めた様々なサービスの提供によって文化遺産に関
わる人々を着実に増やしていき、それによってさらに、活動の意義を高めていこう
とするEuropeanaの取組みには、学ぶべきものが多くあったように感じた。我国でも
Europeanaのようなものを作っていこうという動きが盛り上がりを見せつつあるが、
システムや制度面だけでなく、このようにして文化遺産を介して人と人とのつなが
りを促していこうとする面も大いに参考にしていくとよいのではないだろうか。

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DHM 043 【後編】

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