ISSN 2189-1621

 

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The digital Loeb Classical Libraryのご紹介(2)

前回、The digital Loeb Classical Library(以下DLCL)について、講読せずに可能な範囲で簡単にご紹介しました。今回は、一歩進めて、講読してログインした場合についてご紹介をしていきます。(なお、筆者の環境は、Windows8.1 Pro + Firefox Betaです。環境によっては、多少表示が異なる可能性もあります。)

1.DLCLを講読してみる

前回も書きましたが、DLCLはログインすることで全ての機能を利用可能な状態になります。(ログイン後のステップは後述します。)ログインするためには、まず講読の手続きをしなければなりません。DLCL講読の手続きについては、「How to Subscribe」ページにまとめられている通りですが 、DLCLでは、機関講読(Institutions)と個人購読(Individuals)の二通りの講読方法が用意されています。

機関講読は組織毎の一括契約で、料金体系は組織の種類や規模に応じて要相談のようです。また、機関講読のみ、60日間の無料トライアルが用意されています 。トライアルの案内を見る限り、IPアドレスによるアクセス管理となっています。

個人購読は、各自が個別に手続きを行ないます。年間講読のみ、購読料は初年度195ドル、二年目以降65ドルとなります。書籍版Loebが一冊26ドルですので、DLCL講読の価格設定は、初年度は書籍版を8冊、二年目以降毎年3冊購入しておつりがくる計算です。書籍版Loebは、過去のものの改訂版を含め、年間5冊前後の新刊が刊行されていますので、それらを全部購入するのに比べて、価格は低めに抑えられています。日本から講読する場合、為替相場の影響を受けますので注意が必要です。

個人購読を希望する場合、メールでハーバード大学出版局の担当部署に連絡をとる必要があります 。講読案内に書いてある通り、DLCLに関心があることと在住場所を連絡すると、担当者から返信があります。購読料の支払いはクレジットカードのみ対応です。(実際にはVisa prepaid でも支払い可能でしたので、「クレジットカード」必須というわけでもありません。Visa prepaid以外のプリペイドカードが利用可能かどうかは、直接ご確認願います。)

支払い等の手続きを済ませると、先方から手続き完了の案内と同時に、ログイン用のユーザーネームとパスワードがメールで送られてきます。

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(図1 赤枠内に情報を入力してログインします。)

手続き完了後、DLCLウェブサイトにログインできるようになります(図1)。なお、講読後にまず行うべきことは、ログイン用パスワードの変更です。方法は手続き完了メールに記載されています。(ただ、登録機関内部からのアクセスの場合は、ログインを意識することはなさそうです。)

筆者は今回個人登録の手続きを行ないましたが、ウェブサイト上に申し込み用フォームやメール送信用の雛型などが用意されていない点が気になりました。筆者は、DLCLに関心がある点と東京在住である点に触れた上で、講読方法と詳細を教えてくださいとメールに記して連絡を取りましたが、「How to Subscribe」ページの情報だけでは少々不親切ですし、手続きを始めようとしたときにちょっとした障壁となりえます。

また、筆者が手続きをした際、何回かメールのやり取りをしましたが、ほぼ即日で返信が返って来ていました(日本時間の午前3時前後にメールが届く形)。担当者が何名いるかにもよると思いますが、現状のようにすべて人力での対応ということですと、メールが多くなってくると対応も遅れがちになることも心配されます。(価格設定をみると、個人登録にはあまり積極的ではない可能性もありますが――。まだこのあたりは手探り状態なのかもしれません。)

2.ログインとサインイン

さて、DLCLにログインすると、ページ閲覧数などの制限がなくなると同時に、「サインイン」(Sign in)可能になります。DLCLでは、ログインした後、さらにサインインすることで、すべての機能が利用可能になります。(閲覧数制限などはログインするだけでなくなります。)

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(図2 ログイン後のページ上部)

ログイン後はページの構成が少し変わり、ページの上部に「Sign in」および「Sign up」のリンクが表示されるようになります。

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(図3 「サインアップ」(Sign up)はウェブ上で可能です。)

サインインするためには、ページ上部のリンクから「サインアップ」(Sign up)して、サインイン用の登録を行ないます。登録後、サインイン可能になります。

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(図4 「サインイン」情報入力画面)

やはりページ上部の「Sign in」リンクから、サインアップで登録したEメールアドレスとパスワードを使用してサインインします。(サインインするボタンが「LOGIN」になっているのはご愛嬌。)

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(図5 サインイン後のページ上部)

サインインすると、さらにページの構成が変わり、ページ上部にサインアップ時に登録した名前が表示され、赤枠部分には「MY LOEBS」タブが追加されます。MY LOEBSの名称からも想像できるとおり、サインインすることによって、DLCL使用者が利用時の個別設定をサイトに保存できるようになります。

以上のように、DLCLのウェブサイトでは、「ログイン」「サインイン」の二段階の手順を踏みます。手続き完了メールにも注意書きが書かれていましたが、この点は一部のユーザーを混乱させているようです。たとえば、Googleではログイン、Amazonではサインインが用いられているように、いずれの表現も各社のウェブサービスにアクセスする際の手続きを示す語として区別なく用いられていることを思うと、混乱するのも分からなくはありません。(実際、図4のようにDLCL自身も混同しています。)

簡単にいえば、DLCLでの「ログイン」はウェブサイトそのものへのアクセス、「サインイン」はウェブサイト内部でのユーザーデータへのアクセスを可能とするものです。DLCLを壁に囲まれた町だと見れば、「ログイン」は壁の門をくぐるための手続き、「サインイン」は町に作った個人の住居に入るための手続きといえるかもしれません。また、大学や図書館などの機関講読している場所からログインする場合も、個人購読者が自分のアカウントでログインする場合も、いわば通過する門の相違ですので、ログインしてしまえば、さらにサインインすることで、いずれの環境からも各自のデータにアクセスできます。

なお、Loebの原文や翻訳を読みたいというだけの場合、とくにサインインする必要はありません。閲覧制限のはずれるログインだけで十分に用は足ります。

3.サインインして使ってみる

それでは、サインインした場合にはどのような機能が利用可能となるか、実際に試してみます。

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(図6 「MY LOEBS」を表示)

「MY LOEBS」ページを表示すると分かりますが、サインインした場合、利用者は「ブックマーク」(My Bookmark)・「検索データ」(My Searches)・「コメント」(My Annotations)をサーバー上に記録できるようになります。またMost Recentには登録履歴が表示されますが、「ブックマーク」と「検索結果」のみで、「コメント」は含まれません。なお、各データの編集・削除等は一覧画面の「Action」欄から行うことができます(Edit/Delete)。

「ブックマーク」はいわゆるしおりです。本文閲覧ページ下部に表示されるツールバーのブックマークボタンから行ないます。(図7赤枠部分。登録済みのページには表示されません。)

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(図7 ツールバー。ブックマーク以外にも色々あります。)

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(図8 ブックマーク保存画面)

ブックマークは「Collections」を作成してグループ分けして保存可能です。また、ブックマークを作成したCollectionsに含めた場合、DLCLの他のユーザーと共有可能になります。

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(図9 ブックマーク一覧画面)

図6の画面でMy Bookmarksの箇所をクリックすると、ブックマーク一覧画面が表示されます。左コラム「MY COLLECTIONS」内にある「share」のリンクから、DLCLの他のユーザーとブックマークを共有できます。また、「Create Group」からメンバーグループを作成し、グループでデータを共有することも可能です。

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(図10 検索結果画面右上のツールバー。他の機能も押せば分かります。)

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(図11 検索データ保存画面)

「検索データ」は、検索結果ではなく検索パラメータの保存です。毎回データを入力したり調整したりする手間を省けます。検索結果画面右上のボタンから保存します(図10赤枠部分)。また、図11の通り、検索データを保存する際の画面に「Note」欄がありますが、本稿執筆時点では、そこに何か入力するとエラーがでます(エラーが出てもデータ自体は保存されています)。なお、検索データには、共有機能はないようです。

サインインした場合の機能として、おそらく最も有用性が高いのは、「コメント」機能と思われます。ギリシア語本文やラテン語本文および翻訳・解説の英文に対して、利用者がコメントを付記できます。さらに、各コメントは、ブックマーク同様に、他のユーザーやグループと共有可能です。

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(図12 本文を選択する)

本文を選択すると、鉛筆マークが表示されます。そのマークをクリックするとコメント入力画面が表示されます。既にコメントが存在する部分は黄色でマークされています。

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(図13 コメント入力画面。日本語でも大丈夫です。)

コメントは500字まで入力できます。システムはUTF-8対応ですので、日本語でのコメントも可能です。文字カウント機能もありますが、いずれにせよ500文字までしか入力できないように入力欄で制限されています。

入力したコメントは、本文の黄色でマークされた部分をクリックすると閲覧・編集・削除が可能です。また、同じ範囲を再度選択してコメントをつけると、別コメントとして保存できます。500字以上のコメントが必要な場合などには便利かもしれません。

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(図14 同一箇所に複数コメントの例)

ただし、同一箇所に複数のコメントがあるかどうかは、表示してみない限り見分けがつきません(図14)。なお、ここでの時間表示はアメリカ東部標準時間(EST)となっています。

また、作成したコメントは、図6の「My Annotations」の箇所で一覧表示もできます。

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(図15 コメント一覧表示画面の一部)

コメント一覧画面では、作成したコメントの検索が可能です。また、コメントを一括して削除(REMOVE)、共有(SHARE)できるほか、データ書き出し(EXPORT)機能も用意されています。これは、コメントの一覧データを他のファイル形式に書き出してローカル保存できる機能です。DLCLでは、CSV・PDF・Wordの3つの形式に対応しています。ただし、筆者の環境では、日本語コメントをPDF形式で書き出した場合、適切に表示されませんでした。

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(図16 Wordで書き出した場合)

データ書き出しは便利そうな機能ではあるのですが、前回も触れたように、テキストの参照情報が問題となります。上記データのDocument URIの部分です。

たとえば、データの一行目で、「/homer-iliad/1924/pb_LCL170.13.xml」と記されていますが、これはLoeb叢書第170巻の13ページに「Μῆνιν」が記載されていることを意味しています。作者名と作品名は「Location」欄で分かるものの、「Document URI」欄の情報では、実際にLoebの本文を確認しなければ、ホメロス『イリアス』の第何巻の何行目の語句であるのか分かりません。ほかにも、この表では「Μῆνιν」の行が離れていますが、図14の通り、これは同一箇所に対するコメントです。あるいは、同一ページの異なる場所に同一の語句(かつそれらに対するコメント)がある場合、この一覧のデータだけではそれらの位置関係を判断できないものと思われます。つまり、データがあくまでLoebを基準としたものとなっており、外部に書き出したところで、あまり汎用的な情報とはなっていないわけです。今のところ、こうした問題を回避するためには、コメントを作成する際に、コメントそのものに「1.1」といった参照情報を含めるなどの工夫が必要です。

なお、そうした問題は別としても、現在の一覧ページでは、情報が作成順に表示されるのみで、項目別のソートなどには対応していません。利便性を考えると、このあたりも改善の余地があるようにみえます。

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以上、DLCLのサインインした場合の機能を概観してみました。筆者自身が実際に確認できていない部分もありますが、個々の利用者が自身の関心に基づいてデータを蓄積できる「個別性」と、それらのデータの「共有」がポイントであろうかと思います。また、ウェブベースのシステムであり、各データがサーバーに保存されるため、サインインさえできれば、場所を問わずに蓄積したデータにアクセスできる点も重要です。こうした特徴は、いわゆる今風の機能ということもできそうです。

その一方で、それらがDLCLの囲いの中でのみ可能となっている点も注意する必要があります。せっかく蓄積したデータも、汎用性がなければ活用しにくいものとなります。とくに古典研究という側面で考えると、原文にせよ翻訳にせよ、よほどの事情がない限りLoebのみを参照することはまずありませんので、DLCLでも他の古典関係のデータとの互換性が欲しいところです。(DLCLは後発の電子化プロジェクトですので、なおのこと。)

DLCLの電子化データがどのような規格に従ったものであるのか、表示データのみでは不明ではあるものの、現在の状態から察するに、本文データに付記されるべきメタデータが不十分なのではないかと推測されます。とはいえ、あくまで「電子版のLoeb叢書を読む」という点に限っていえば、残念な部分が見受けられるにせよ、現在の形でも十分に有用なものになっていることは確かです。少なくとも、500冊を超えるLoeb叢書を手軽に閲覧できるようになったことは、非常に大きな進展であるといえます。このあたりは、DLCLに何を期待するかという、目的意識によって評価が変わってくるように思います。

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ところで、Loeb刊行本の電子化については、部分的とはいえ、既に20年以上前からPerseusプロジェクトによる試みが行なわれています。DLCLは発行元本家による電子化ではありますが、そもそもLoeb叢書を含む西洋古典文献の「電子化」に関する発想と実装という点では、Perseusプロジェクトに長期にわたる試行錯誤の歴史があり、蓄積があるわけです。前回、Perseus主幹のCrane教授によるDLCLに関する評価についても扱う旨述べたのですが、結局本稿では触れることができませんでした。ということで、次回は、そのあたりも眺めつつ、今回とはまた異なる角度から改めてDLCLについて考える予定です。

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