◇《特集》「デジタル学術資料の現況から」第10回
CADAL(China Academic Digital Associative Library)利用レポート
(王一凡:東京大学大学院人文社会系研究科修士課程)
CADALとは、中国国内の大学図書館が中心となって整備している共同デジタル化ラ
イブラリーのことで、各図書館の蔵書をデジタル化し、オンライン上で共有するこ
とを目的としています。2014年2月現在、270万冊以上の書籍・雑誌が収録されてい
ます( http://www.cadal.cn/zydt/index1402.htm による)。
CADALライブラリーポータルページ(CADAL数字図書館)
http://www.cadal.zju.edu.cn/index
プロジェクトトップページ
http://www.cadal.cn/
このプロジェクトについては、日本語での紹介記事が2014年4月に国立国会図書館
ウェブサイトに掲載されており、日本国内の機関からもすでに活発に利用され始め
ていることが述べられています。
中国の資料デジタル化プロジェクト・CADALの利用と参加について
https://rnavi.ndl.go.jp/asia/entry/bulletin12-1-1.php
登録から閲覧までの手順は上記記事(以下「NDL記事」と呼ぶ)で詳述されていま
すので、本レポートでは主に実際の利用にあたっての解説・考察・留意点などに焦
点を当ててお伝えしていきます。メールマガジンでは図表の使用ができないため、
画面イメージの詳細についてはNDL記事と対照しながら読み進めていただければと思
います。なお、本記事の内容は2015年1月現在の情報に基づきます。
1.コンテンツ
2.インターフェイス
3.検索
4.閲覧画面
5.メタデータ
6.ユーザー機能
7.日本からの参加について
1.コンテンツ
NDL記事でも述べられている通り、全資料の閲覧は参加機関のIPアドレス内からの
アクセスのみに制限されています。現在日本には参加機関がなく、筆者個人も参加
機関には所属していないため、制限付き資料の貸出機能には触れず、一般ユーザー
資格で閲覧可能な部分に絞ってご紹介します。
参加機関を通さない一般ユーザー資格で閲覧可能な部分は古典籍(23万冊余り)
全体と、外国語資料(76万冊余り)の一部のみです。外国語資料は一部と書きまし
たが、少なくとも英文の書籍については閲覧可能な点数は相当に多く、2000年以降
に出版された書籍も閲覧可能になっていることがあります。外形からは提供元機関
などの情報は得られませんが、閲覧可能な本文の蔵書印などから推察するに、少な
くとも中国・米国・インドから提供されていることが確認できます。確認可能な限
りでは著作権の保護期間との相関は薄く、閲覧の可否は提供元の裁量によっている
と思われます。
古典籍以外の中国語資料については一律にブロックされている様子で、例えば民
国初期の地方誌や行政資料、魯迅などの作品は著作権が適用されるとしても明らか
に保護期間が満了していると考えられる(現在の中国でも創作後50年)にもかかわ
らず、一般ユーザーからはアクセスできません。それでも、古典籍の収録点数につ
いては膨大なものがあり、四庫全書をはじめとする各種刊本の原本をオンライン上
から閲覧できるメリットは大きいと言えるでしょう。特に、大部の全書・叢書類は
紙媒体での所蔵や図書館へのアクセスが負担となるため、オンラインで原典を参照
できることは多大な利便性をもたらします。
なお「古典籍」の定義ですが、概ね影印本とみなされるものは一般ユーザーでも
アクセス可能なのに対し、校訂や編集が加えられているものはアクセスが拒否され
るようです。写本(抄本)の影印本の場合は原典が古くても、例えば『紅楼夢稿』
や敦煌文書の図版本がアクセスできないという微妙なケースもあります。人文情報
学研究所の永崎研宣氏によれば、収録されている大蔵経資料のうち卍蔵経・卍続蔵
経・頻伽精舍校刊大藏經・中華大藏經・高麗蔵の単冊本・大正新修大藏經(一部)
が一般アクセス可能で、頻伽精舍校刊大藏經(別版)・宋碛砂藏经(磧砂蔵)
が閲覧制限ありとのことでした。筆者が確認したところ、頻伽精舍本のうち
片方(出版者が「頻伽精舍」)は民国期図書扱いであり、もう片方(出版者が「大
綸頻伽精舍」)は古典籍扱いとなっていました。また、卍続蔵経では1994年出版の
もの(出版者が「新文豐出版公司」)が古典籍の影印とされているのに対し、戦前
出版されたもの(出版者が「上海涵芬樓」)は民国期図書として閲覧ができない状
態でした。このように全体として判断が一貫しているとは限らないことに留意して
おく必要があります。
閲覧不可の画面を開こうとした場合、「500」エラー用のページにジャンプします。
これは単純なエラーページと区別が付きませんが、資料を開こうとして500エラーが
表示された場合、十中八九は閲覧不可であることを示しています。
2.インターフェイス
表示言語には中国語(簡体字)と英語が選択できます。NDL記事の図1などに見ら
れるように、ページ上部の青く表示されているヘッダーの右端から言語設定を切り
替えることができます。個別に紹介しますが、現時点では中国語画面と英語画面で
は表示が完全に同じわけではなく、中国語画面の方がやや良く整備されていると言
えます。
ヘッダー左側からは主に他コンテンツ(主題別データベースなど)にアクセスで
きますが、本稿の範囲を越えるので省略します。ヘルプ(帮助/Help)と
問い合わせ画面(客服/Customer Service)へのリンクもこちらにあります。
ヘッダー右側からは、ログインしている場合、ユーザー個人のタグ(标签/Tag)
・コメント(评注/Comment)・メッセージ(消息/Message)・
おすすめ(推荐/Recommend)ページに直接ジャンプすることができます(ユーザー
機能の項を参照)。
言語設定はグローバルに設定されているため、複数のタブで閲覧している場合、
特定のタブで変更すると次からすべてのタブで表示が切り替わります。また、切り
替えると現在見ているページにかかわらずトップページに戻されてしまいます。そ
の他、一部リンクミスが見られるなど、ユーザビリティの観点からはまだ改善の余
地があると言えます。
3.検索
検索語を指定して検索画面を表示すると、上から検索語、絞り込み条件、結果の
順に表示されます。検索語はデフォルトではタイトル・作者名・キーワードから検
索されますが、タイトルや作者名のみを指定することが可能です。絞り込み条件は
上からジャンル(类型/Type)・タグ(标簽/Tag)・出版社(Press)を指定でき、
ジャンルはいずれか一つ、タグと出版社は複数同時に選択可能です。現在選択中の
条件は「您已选择了/You Choose」の行に表示されますが、ブラウザの戻
るボタンなどで前の画面に遡って再操作すると、意図せぬ絞り込みの重複が発生す
ることがあります。なお、タグ情報は絞り込みに使用されますが、タグで検索する
ことは現時点ではできないようです。
とりあえず一般ユーザーにアクセスできる書籍を探す場合は、ジャンルに「古籍」
または「英文」を指定しておくのが良いでしょう。
検索語は常に「OR条件」で扱われます。複数検索語を入力すると結果がむしろ増
加してしまうので、不便さを感じます。
検索用のデータベースは、元の表記と「簡体字化」した表記データを持っている
とみられ、「历史」(簡体字)で検索すると簡体字・繁体字両方の検索結果が取得
できますが、「歷史」(繁体字)で検索すると繁体字のみの結果が得られます。日
本の新字体は変換データに含まれていないようで、「歴史」(新字体)で検索した
場合、日本語の資料(と誤字のある中国語資料)のみが得られます。繁体字→簡体
字の変換はわずかに一意に定まらないケースがあることが知られていますが、「着」
で検索すると「著」を含む資料がヒットするのを除いて特に対策はとられていない
ようです。
タグやキーワードは、中国からの利用がメインのため、簡体字で入力されること
が多いようです。
4.閲覧画面
閲覧可能な資料を開いた場合、電子書籍のビューアに似た閲覧画面が表示されま
す。上部に操作パネルがあり、言語設定が英語の状態で閲覧画面を開いた時は英語、
中国語の場合は中国語で説明がポップアップします。パネルボタンはNDL記事の図4
にある通りですが、一番右のボタンで詳細な機能説明が出ます。
主要なものは一番左が「目次を表示」機能、左から2番目が「タグを追加」機能、
左から4番目が「コメント」機能、左から5~7番目が表示モードの切り替えです。
「タグを追加」はユーザーの既存タグから、または新規タグを入力して資料をタ
グ付けすることができます。タグは資料とともにユーザーページ(後述)から確認
できます。タグは検索にも利用されると考えられますが、反映には時間がかかるよ
うです。タグの削除方法は現在のところ不明です。
「コメント」はボタンを押すと入力モードに変わり、表示が固定されます。この
状態でページの一部をドラッグして範囲指定することでコメントの入力欄が開きま
す。入力されたコメントは指定範囲とともにユーザーページから確認できます。資
料中にコメントがある場合、画面右側にユーザーごとのアイコンが表示され、ユー
ザーごとのコメントの表示切り替えが行えます。
表示モードは標準解像度での単ページ表示・見開き表示、高解像度での単ページ
表示が選択可能です。見開き表示にした場合はさらに古典モード(古)と現代文モ
ード(今)が切り替えられ、古典モードでは右開き表示になります。外国語資料の
一部で見開きモードにすると必ず表示バグが発生することを確認しましたが、原因
は不明で、これが発生する資料では画面を開き直さない限り単ページ表示に戻らな
くなってしまいます。
本文画像の品質については、近代デジタルライブラリーなどと比べると劣り、ま
たページによってバラツキがある場合がありますが、現代外国語資料を見る限りで
は、十分な解像度・画質が確保されていると思われます。ただし古典籍については、
残念ながら本文が白黒(もしくは階調の低いグレースケールか)の文献が多く、か
すれた部分や細かい印刷の状態を確認することには不適ですが、内容を把握するた
めにはさほど支障がないと思われます。
5.メタデータ
検索画面から各資料の詳細(详情/Detail)をクリックする、または閲
覧画面から書誌情報(图书信息/Book's information)をクリックするこ
とでメタデータと目次情報が表示されます。ここでメタデータの編集が可能ですが、
言語設定が英語の場合、編集ボタンが表示されません。編集を行う場合は、必ず中
国語設定で画面に進入する必要があります。
中国語設定の場合、上からタイトル(书名)、作者、出版社、出版年
月日(出版日期)、キーワード(关键字)、説明文(描述)、その他情
報(其他)について「編集」(编辑)および「編集履歴」(编辑历史)
の閲覧が可能です。「編集」の場合その場で入力欄が開き、注意書きが
書かれていることがありますが、赤太字で書かれている部分が正しい形式を表して
います。
メタデータは古典籍の場合情報が不足していたり、外国語資料の場合非常に乱れ
ている(日本語資料の仮名部分が誤っているなど)ことがあるため、各々のユーザ
ーが修正していくことで、今後の利用により有益になると思われます(次項も参照)。
目次情報は各項目のアイコンをクリックすると資料の該当箇所にジャンプします
が、当然閲覧できない資料は表示されません。
6.ユーザー機能
CADALでは各ユーザーごとにユーザーページが設けられています(NDL記事の図3)。
ここでは自分のつけたタグ・コメントの表示、設定の変更を行うことができます。
また、貸出ができる環境の場合ブックリストなども管理できるようです。
ユーザーページには簡易なソーシャル機能が付いており、コメントなどを通じて
他ユーザーのページを訪問し、フォロー(关注/Follow)することができ
ます。
注目すべきは、現在サイト上の表示(中国語画面のみ)で、資料のスキャン不良
の報告やメタデータの修正への協力を呼びかけており、ユーザーの実績次第では個
人の制限付き資料へのアクセス特典を認めるという告知がなされています。具体的
な目標は不明ですが、幸いと言うべきか現状では古典籍について修正箇所に事欠く
ことはないので、継続的に利用していく見込みのある方は、ぜひ積極的に参与して
みてはいかがでしょうか。
7.日本からの参加について
現在日本の機関でCADALに参加している所はありませんが、NDL記事でも触れられ
ている通り、CADALは現代図書や学位論文なども豊富に収録しており、それらへのア
クセスが可能になることで真価を発揮できます。参加の際には原則として3000点以
上の資料を提供する必要がありますが、単館での参加に限らず、複数館が共同で資
料を提供・参加することが認められています。
懸念事項としては、日本国内で著作権が残る資料を複製・提供する場合の権利処
理が不透明であることです。CADALの貸出システム(資料ごとに同時貸出数の制限を
設ける)はおそらく中国国内の著作権法に基づいて図書館としての外形を満たすた
めに設計されたものですが、同様の利用方法が日本の著作権法で認められるか、送
信可能化権などに抵触しないかどうか判断が難しい面があります。このような国際
的な共同事業の円滑化のためにも、デジタル化著作物の利用方法について適切な施
策がとられることを願っています。
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