ISSN 2189-1621

 

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イベントレポート(2) シンポジウム「Digital Humanities & The Futures of Japanese Studies」

◇イベントレポート(2)
シンポジウム「Digital Humanities & The Futures of Japanese Studies」
https://www.si.umich.edu/events/201503/symposium-digital-humanities-futu...
 (橋本雄太:京都大学大学院文学研究科 博士課程後期)

 2015年3月14日から15日の2日間にわたり、米ミシガン大学アナーバー校にて国際
シンポジウム“Digital Humanities & The Futures of Japanese Studies”が開催
された。ミシガン大学は米国の公立大学の名門校として有名であるが、日本研究の
有力拠点としても知られている。同校の日本研究センター(Center for Japanese
Studies, http://www.ii.umich.edu/cjs/ )には、今回のシンポジウムのオーガナ
イザーであるJonathan Zwicker教授ほか多数のスタッフが勤務しており、頻繁に日
本研究に関する講演やシンポジウムが開催されている。

 今回のシンポジウムの趣旨は、デジタル・ヒューマニティーズ研究の世界的流行
を受け、デジタル・ヒューマニティーズが日本研究の発展に、特に、日米間の国際
的な共同研究の実現に寄与する可能性を日米の研究者で論じようというものである。
シンポジウムにはミシガン大学の日本学研究者とデジタル・ヒューマニティーズ研
究者4名に加えて、日本から立命館大学の赤間亮教授、人文情報学研究所の永崎研宣
氏、そして筆者の3名が講演者として参加した。

 シンポジウム1日目は、赤間教授による基調講演“Digital Humanities for
Japanese Arts and Culture: The Case of the Art Research Center,
Ritsumeikan University”によって幕開けした。赤間教授の講演の中心となったの
は、自らが立命館大学アート・リサーチ・センターで実践する文化財のデジタル化
方式「ARCモデル」の紹介である。赤間教授の講演に続いて、ミシガン大学の
School of Informationで教鞭を取り、文化遺産のデジタル化を専門にするPaul
Conway教授による“Digitization and Access to Live Sound Recordings: Two
Case Studies from American Folk and the African Field”、今回のシンポジウム
のオーガナイザーであり、近世・近代日本文学の専門家であるJonathan Zwicker教
授による“From Ephemerality to the Enduring Ephemeral: Performance and the
Archive in the Digital Age - the Case of Japan”、ミシガン大学図書館の日本
学専門司書である横田カーター氏による“Building Library Support for Digital
Scholarship in Japanese Studies”、またHathiTrustプロジェクトのAssistant
directorであるJeremy York氏による“Digital Humanities in HathiTrust:
Research at Any Scale”とミシガン大学関係者の講演が続いた。いずれも日本研究
とデジタル・ヒューマニティーズの専門家が、それぞれの立場から人文学研究にお
けるデジタル技術の利用について論じた充実の内容で、質疑応答のセッションでは
活発な意見交換がなされた。当日の詳細なスケジュールや講演者のプロフィールは、
ミシガン大学のイベント告知ページから確認できるので、ご関心のある方は合わせ
て参照されたい。

 シンポジウム2日目には、“From Theory to Practice: Tools and Technics in
Japanese Digital Humanities”というセッションタイトルのもと、永崎氏と筆者の
二名が講演とワークショップを行った。永崎氏の講演“Data Visualization of
Japanese Literature”では、日本語テキストの統計解析とその可視化に利用できる
ツールとしてVoyant( http://voyant-tools.org/ )およびMIMA Search(
http://mimasearch.t.u-tokyo.ac.jp/ )の紹介が行われた。続く筆者の講演では、
歴史史料画像の研究支援ソフトウェアであるSMART-GS(
https://sourceforge.jp/projects/smart-gs/ )の紹介を行った。さらに午後の部
では、各参加者のラップトップPCにSMART-GSをインストールしてもらい、ハンズオ
ン形式でSMART-GSを利用した日本語史料読解を体験してもらうワークショップを実
施した。

 シンポジウムを挟んで計4日間にわたるミシガン滞在中、強く印象に残ったのは、
米国の大学の人材の豊富さと多様さである。シンポジウムの合間、現地で日本学を
専攻している大学院生数名と話す機会があったのだが、ほぼ完璧な日本語を話すの
で驚いてしまった。また、大学図書館司書の方々の旺盛な活動ぶりも印象的であっ
た。シンポジウム2日目の参加者は、恐らく半数近くが図書館関係者だったのではな
いかと思う。イリノイ大学など、近郊の大学の図書館からも多くの参加者があった
ようだ。

 今回のシンポジウムのテーマでもある日米間の“long-distance collaborative
enterprise”の実現は、今後のデジタル・ヒューマニティーズ研究の主要課題とな
り得るテーマであろうと思われる。通信情報技術の発達により、太平洋を隔てた日
米間のコミュニケーションは、ほぼゼロコストで行うことが可能になった。しかし
ながら人文学、特に文学研究の分野では、これを最大限活用して国際的な知的交流
を実現した事例は、いまだ僅少であるからだ。日米の日本文学研究者が、Web上に構
築された何らかのプラットフォームを利用して、式亭三馬や上田秋成の作品解釈に
ついて意見を戦わせ、共同で研究を進める-そうした状況を形作るための情報環境
の構築が今後求められるように思われる。

 最後に、ごく個人的な感想になってしまって恐縮だが、今回のような長時間にわ
たる英語発表(講演とワークショップを合わせて2時間45分)は筆者にとって初めて
の経験であり、これを無事に終えられたことは研究者を志す人間として大きな自信
になった。いち大学院生に過ぎない私に発表の機会を与えてくれたミシガン大学の
Zwicker先生と、SMART-GSプロジェクトを先方に紹介して頂き、現地でも多数のアシ
ストをして頂いた永崎先生に、この場を借りて厚く御礼申し上げたい。

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