DHM 174

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人文情報学月報第174号

Digital Humanities Monthly No. 174

ISSN 2189-1621 / 2011年08月27日創刊

2026年1月31日発行 発行数1161部

目次

  • 《巻頭言》「『The Digital Orientalist』:過去から未来へ―発展の軌跡とその方向性
    モリス、ジェームズ・ハリー人間文化研究機構・人間文化研究創発センター/国立歴史民俗博物館
  • 《連載》「欧州・中東デジタル・ヒューマニティーズ動向」第90回
    聖書学におけるデジタル読書環境の進化:Blue Letter Bible と Bible Hub の比較
    宮川創筑波大学人文社会系
  • 《連載》「英米文学と DH」第13回
    閑話休題:DH と教育(1)
    橋本健広中央大学国際情報学部
  • 人文情報学イベント関連カレンダー
  • 編集後記

《巻頭言》「『The Digital Orientalist』:過去から未来へ―発展の軌跡とその方向性

モリス、ジェームズ・ハリー人間文化研究機構・人間文化研究創発センター研究員/国立歴史民俗博物館特任准教授

『人文情報学月報』の読者の皆様は、すでに『The Digital Orientalist』についてご存じでしょう。宮川創は長年『The Digital Orientalist』のチームメンバーを務め、『人文情報学月報』にも寄稿しており、同誌第122号【前編】(2021年9月30日)では本誌の沿革を記している。その後も宮川氏や他の寄稿者による『The Digital Orientalist』の活動報告が断続的に掲載されてきた。本稿では、『The Digital Orientalist』のこれまでの歩みを概説するとともに、今後の展開について述べる。

『The Digital Orientalist』(ISSN: 2772-8374)は、オランダ人のイスラム研究者でありデジタル・ヒューマニティーズ研究者でもある L.W.C. van Lit による個人ブログとして2013年に創設された。出版物としての可能性と読者数の増加を見据え、Van Lit 氏は2018年半ばに、私を含む編集者・執筆者チームをウェブサイトに招いた。これによりブログはデジタル雑誌へと移行し始め、イスラム研究を中心とする姿勢から、アジア・アフリカ・中東の歴史的な研究を横断するデジタル・ヒューマニティーズへと焦点が転換された。2019年には新たな体制が導入され、Van Lit 氏は私を本誌の初代編集長に任命した。私はこの役職を2021年半ばに辞任するまで務め、その後、Van Lit 氏とアメリカ人聖書学者 Jonathan Robker とともに新設された運営委員会に参加することとなった。

その後、『The Digital Orientalist』の編集は、モンゴル研究者 Daigengna Duoer(2021–2022)、中国学者 Maddalena Poli(2022–2024)、チベット研究者 Rachael Griffiths(2024–現在)へと引き継がれている。その数年の間、Poli氏と Griffiths 氏、そして中国学者 Mariana Zorkina が経営委員会に加わり、2024年には私が Van Lit 氏から組織の所有権を引き継いだ。同時に、チームは2018年の6名から2025年には48名へと成長している。こうした組織構造は読者に必ずしも明確ではなかったため、最近では仕組みを説明するページをウェブサイトに追加した。実質的に編集長は、他のすべての編集者・寄稿者を監督しつつ、ウェブサイトの日常運営を担い、経営陣は長期的なビジョンと方針の策定を担う。これらの役割・機能・慣行は、組織の細則に概説されている。


『The Digital Orientalist』の組織構造

『The Digital Orientalist』の成長の基盤には、読者数の増加がある。ソーシャルメディア担当チームや寄稿者、編集者による『The Digital Orientalist』の積極的な広報活動に加え、この成長の多くは自然発生的なものと考えられる。読者は編集者や寄稿者が扱う内容やテーマに関心を寄せているためである。また、従来我々が「低レベルなデジタル・ヒューマニティーズ」(英:Low-Level Digital Humanities)と呼んできた、平均的なコンピューターユーザーを対象とする手法を多く扱ってきたことも一因だと考えられる。これは批判的レビューやチュートリアルといった記事形式にも反映されている。近年はより高度なトピックを扱う記事も増えているが、我々の目標は一貫して、平均的なコンピューターユーザーにデジタル・ヒューマニティーズを身近なものにすること、そしてアフリカ・アジア・中東の歴史学におけるデジタル・ヒューマニティーズ分野を越えた対話を可能な限り促し、新たなアプローチ、ツール、方法を提示することにある。

私が2018年に編集長に就任した時点で、個人読者数は6,500名であった。これは2021年末までに42,000名へと増加し、2021年から2023年にかけては成長が緩やかになったものの47,000名に達し、2024年には再び急速な拡大が見られた。2025年の年間データでは、約67,000名の個人読者と115,000回以上のページビューが記録されている。主な読者層は米国、英国、インド、ドイツ、日本とみられる。『The Digital Orientalist』以外での経験は限られるため断定はできないが、デジタル・ヒューマニティーズ分野の主要出版物としては驚異的な数値だと聞いている。当然ながら、ソーシャルメディアや月刊ニュースレターを通じた読者層も存在する。2019年よりバーチャルカンファレンスを開催しており(2023年までは年次、以降は隔年)、またチームメンバーは Van Lit氏と私が編集した Digital Humanities and Religions in Asia: An Introduction(De Gruyter, 2023)などの共同著作も発表している。

ここ数年、我々は二つの主要目標を掲げてきた。

  1. プロフェッショナル化の推進
  2. 多様化の推進

これらは今後も『The Digital Orientalist』の方向性を規定し続けるだろう。

プロフェッショナル化の試みは、多くの試行錯誤を伴った。現在の体制に至るまで、内部の階層構造を何度も再構築した。ワークフローツールについても同様で、約3年前に Discord と Trello を主要ツールとして採用し、ストレージには Google Drive、外部や重要な連絡にはメールを使用する体制を確立した。このプロフェッショナル化推進の一環として、執筆者・編集者向けのスタイルガイドやコンテンツ管理ガイドラインを整備し、著者の権利・責任・著作権に関する方針に加えて、組織内規も策定した。さらに The American Oriental Society(2019–2022)など、他組織との連携も進めてきた。

多様性という点では、チーム拡大と研究対象地域の拡大に努めるとともに、欧州・北米以外の地域の声を反映することを重視してきた。人種や性別といった人口統計学的指標は選考基準には含めていないが、北米・欧州以外の地域、若手研究者、学術界で過小評価されがちな立場の研究者を積極的に取り込むことに力を注いでいる。現在48名からなるチームは、アフリカから日本研究に至るまで幅広い分野の記事を出版しており、半数以上が女性であり、半数以上が有色人種で、約2割が欧米以外在住である。これは多様性に富んだチーム構築における大きな成果だと自負しているが、欧米以外の地域からの参画を増やす取り組みが依然として必要であることも認識している。現在、サハラ以南アフリカ研究およびオーストララシア・太平洋島嶼地域研究を専門とするメンバーの参画も引き続き求めている。さらに、出版経験が乏しい研究者が『The Digital Orientalist』に記事を掲載できるよう支援する非公式のメンター制度も整備している。今年度は、若手メンバーが編集者の業務を観察して編集作業を学び、また運営委員会の業務を観察して管理経験を積むことができるよう、このメンター制度を拡充した。


『The Digital Orientalist』のチーム

過去数年間で大きな進展があったものの、資金面(現在は組織に関わる全費用を私が負担している)[1]および人的資源の面から活動には限界がある。長期的な目標として、Zenodo などのプラットフォームを用いてすべての記事に DOI を付与することを掲げているが、人手不足のため現時点では実現していない。その他の目標としては、ウェブサイトの再設計・改善や、非営利団体(NPO)としての組織化などがある。短期的には、『The Digital Orientalist』を小規模ながらも着実に改善することを目指している。これまで不十分だった点の一つが透明性である。冬休み期間中、Griffiths 氏と私は、新しいページの作成や「About」ページの情報再編成を通じて、組織運営に関する情報を整備した。また、フィードバック・問い合わせを受け付けるページを設け、一般からの意見を受け入れる新たな手段を開いた。さらに Griffiths 氏は、フッターやカバー画像に焦点を当て、小規模ながら効果的なデザイン改善を行っている。

今後数年間、我々は成長を続けるとともに、プロフェッショナル化と多様化を一層推進していく考えである。『人文情報学月報』の読者の皆様にも、この歩みに関心を寄せていただければ幸いである。これまで『The Digital Orientalist』をご覧になっていない方は、ぜひウェブサイトにアクセスし、掲載内容をご覧いただきたい(9月から6月までは毎週火曜・金曜に新着記事を公開している)。また、随時投稿を受け付けているため、英語圏の読者に研究成果を届けたい方は、ぜひ投稿されたい。翻訳や編集などの支援が必要な場合は、私【morrisjamesharry[at]gmail.com】まで気軽に連絡いただきたい。

[1] 我々は完全なボランティア組織であり、いずれのチームメンバーにも報酬は支払われていない。

執筆者プロフィール

モリス、ジェームズ・ハリー(James Harry MORRIS)。人間文化研究機構・人間文化研究創発センター研究員、国立歴史民俗博物館特任准教授。専門は宗教学・日本史。2018年にセント・アンドリューズ大学博士課程を修了し、博士(神学)を取得。2018年から2022年まで筑波大学助教(任期付き)、2022年から2024年まで早稲田大学助教および講師(任期付き)、2024年から2025年まで宇都宮大学助教(テニュアトラック)を務め、2025年より現職。
Copyright(C) MORRIS, James Harry 2026– All Rights Reserved.

《連載》「欧州・中東デジタル・ヒューマニティーズ動向」第90回

聖書学におけるデジタル読書環境の進化:Blue Letter Bible と Bible Hub の比較

宮川創筑波大学人文社会系准教授

はじめに:紙媒体からデジタル空間への移行

人文情報学において、聖書学は最も早期かつ劇的な変容を遂げた分野の一つである。かつて研究者は「ストロング語句索引」[1]や『ネストレ=アーラント版』(ギリシア語新約聖書)[2]や『ビブリア・ヘブライカ・シュトゥットガルテンシア』(ヘブライ語聖書/旧約聖書)[3]などの紙媒体を繰りながら、原典言語と翻訳の対応関係を解読していた。こうした精読作業は膨大な時間と専門知識を要し、一般読者にとっては高い参入障壁となっていた。現在、これらはハイパーリンク化された「デジタル読書環境(Digital Reading Environment; DRE)」へと移行し、読者は単語単位で深層構造へアクセス可能となった。

本稿では、世界的に利用される無料 Web ツール「Blue Letter Bible(BLB)」と「Bible Hub」のインターリニア機能と辞書機能を比較分析し、両者の設計思想とデータソースの差異を明らかにする。

Blue Letter Bible[4]

1996年に設立された BLB は、「聖書の無誤性」を掲げる保守的キリスト教団体によって運営され、KJV(1611年、ジェームズ王訳・欽定訳)とその底本 Textus Receptus(1516年、公認本文)を基軸とする点が学術系ツールとは一線を画す。

BLB の最大の特徴は「Reverse Interlinear(逆行間訳)」である。伝統的なインターリニアは原典の語順に従うため不自然な英語となるが、Reverse Interlinear は翻訳の語順を維持したまま原典情報を動的に再配置する。ユーザーは読み慣れた英語聖書を読みながら、各単語の直下に原典のギリシア語・ヘブライ語、音訳、文法情報、ストロング番号を確認でき、「翻訳を読む」体験と「原典を確認する」体験がシームレスに統合される。


図1:『ローマにいる信徒への手紙』第5章1節の Reverse Interlinear の表示[5]。KJV 英語訳の各単語の下に、KJV と同じ英語の語順で、ギリシア語聖書の単語とラテン語転写、ストロング語句索引番号(語彙番号)、辞書形、辞書形のラテン文字転写、文法情報(品詞や性・数・格、時制・相・態・法などの情報)が並べられている。

特筆すべきは「垂直矢印システム」である。翻訳と原典の関係は常に一対一ではなく、原典の一語が複数の翻訳語に分割される場合や、複数の原典語が一つの翻訳語にまとめられる場合がある。BLB はこうした複雑な対応関係を矢印で可視化し、翻訳における意訳や補足を透明化する。これは機械翻訳研究における「ワードアライメント」の可視化にも通じる高度な手法であり、NLP の成果を人文学的読書体験に応用した好例である。


図2:『ローマにいる信徒への手紙』5章12節の通常のインターリニア表示[6]。dia という単語と touto という2単語が、KJV 英語訳の Wherefore という1単語に対応していることを矢印(⇐)や結び付き(🔗)などの記号で記されている。

BLB の辞書機能は、Larry Pierce 氏による修正を施したストロング語彙索引の意味情報と、独自の「Outline of Biblical Usage」を特徴とする。この「Outline」は各語の意味を階層的に分類し、コンテクストごとの用法を整理する。例えば「λόγος(logos)」では「発話された言葉」「教義」「理性」「神的表現としてのキリスト」といった階層構造が提示される[7]。ただし Pierce の定義には参照ソースに存在しない記述が含まれる場合があり、二次的・解釈的データであることに留意が必要である。

Bible Hub[8]

Bible Hub(旧称 Biblos.com)は、BLB の「垂直的」深掘りに対し、多数のリソースを並列させる「水平的」アプローチに特化する。画面上部に「Parallel」「Interlinear」「Commentaries」「Lexicon」などのタブが常設され、同一聖句への異なる視点を即座に切り替えられる。「Parallel」タブでは20以上の英語やその他の言語への翻訳を並列表示し、翻訳間のニュアンスの違いを一目で比較できる。

Bible Hub のインターリニア機能で最も画期的なのは、複数の底本テクスト間の差異を可視化する「デジタル本文批評」環境である。ネストレ1904年版をベースとしつつ、SBLGNT[9]、NA27[10]、Textus Receptus などの様々なギリシア語校訂テクスト異読を記号で明示する:{TR}(公認本文版)、⧼RP⧽(ビザンツ主要本文版)、[NA](ネストレ=アーラント版)、‹SBL›(聖書文学会版)。これらの記号で異なる校訂版のテクストの違いを表示することによって、『マルコによる福音書』の16:9–20[11]のような有名な異読箇所で、どの単語がどの校訂版に含まれるかを一目で確認できる。従来、こうした情報は UBS Greek New Testament[12]の欄外注や専門的注解書でしか得られなかったが、Bible Hub はこれを無料かつ視覚的に提供している。


図3:Bible Hub における『ローマにいる信徒への手紙』第5章12節のインターリニア版。ギリシア語を中心に、そのギリシア語単語に対する訳が英語で下に書かれ、さらに文法情報が書かれている。クリックすると幾つかの辞書が引けるストロング語句索引番号およびラテン文字転写はギリシア語単語の上に書かれている。

Bible Hub の辞書機能における革新は、聖書本文の語彙の意味をより丁寧に分かりやすく説明する語彙釈義データベースである「HELPS Word-studies」の統合である。このデータベースの語彙釈義は語の「核心的意味」と「神学的ニュアンス」を重視する。例えば「βοηθός(助け主)」[13]では「叫び声を聞いて救助に駆けつける者」という動的イメージを、「ἁμαρτάνω(罪を犯す)」[14]では「神の定めた目標を外すことによる喪失」という神学的解釈を提示する。ただし語源論的説明は「語源俗解」に陥るリスクもあるため、Bible Hub は Thayer's Greek Lexicon やストロング語句索引などの伝統的辞書も並列表示し、「定義」と「解釈」の重層的情報を提供している。

比較分析と人文情報学的展望

両者の根本的差異は「底本」の選択にある。BLB は Textus Receptus と KJV を重視し伝統派と翻訳の成立の研究に適した整合的環境を、Bible Hub は批判校訂版を重視し現代翻訳(ESV(English Standard Version)と NIV(New International Version))に近い環境を提供する。この差異は「聖書テクストの権威をどこに置くか」という神学的立場の反映である。辞書機能においても、BLB の「Outline」は用例分類が詳細でコンコーダンス的利用に優れ、Bible Hub の「HELPS Word-studies」は神学的メッセージの伝達や説教準備に適している。

人文情報学的観点からは、データの「オープン性」と「相互運用性」が重要な評価軸となる。Bible Hub は CC-BY 4.0ライセンスの SBLGNT を採用しデータ再利用性で優位であり、HTML 構造もシンプルで機械可読データとしての抽出が容易である。一方 BLB は独自データセット(Pierce 修正版ストロング、Outline 等)に強みを持つが API 公開は限定的である。将来的には、両プラットフォームが Linked Open Data(LOD)の枠組みに統合され、ストロング番号から Perseus の LSJ[15]、Perseus Digital Library の西洋古典文学デジタル読書環境である Scaife Viewer[16]の用例、Wikidata へと繋がる知識グラフの構築が期待される。

重要なのは、両者を「競合」ではなく「相補的エコシステム」として捉えることである。研究者は BLB で Reverse Interlinear と垂直矢印システムを用いて翻訳と原典の構造的対応を精密に分析し、その後 Bible Hub で異読情報や神学的ニュアンスを比較検討する「往還」により、紙媒体時代には不可能であった立体的な聖書研究が実現する。デジタル読書環境は今後、聖書学のみならず人文情報学全体における「精読支援インフラ」としての可能性を秘めている。

[1] アメリカの神学者ジェームス・ストロングの元で編纂された、1890年出版の旧・新約聖書コンコーダンス。
[2] ギリシア語新約聖書の諸翻訳の底本として最もよく用いられている。正式名称は Novum Testamentum Graece(ラテン語で「ギリシア語新約聖書」)。現在の最新の版は第28版(NA28; 2012年)であり、初版は、1898年出版。歴代の主要編集者(1950年代までのエーバーハート・ネストレと息子のエルヴィン・ネストレ、1950年代からの、クルト・アーラントとバーバラ・アーラント)にちなんで、ネストレ=アーラント版と呼ばれる。1950年代以前は、単にネストレ版とも呼ばれる。
[3] Biblia Hebraica Stuttgartensia。ヘブライ語聖書の翻訳元の底本として最もよく用いられている。1909年に最初にルドルフ・キッテルの責任編集で初版が出版され、改訂を繰り返してきた Biblia Hebraica が1977年に再編纂されたもの。ドイツ聖書協会の本部があるドイツの都市シュトゥットガルトの地名を冠している。なお、『旧約聖書』という呼称はキリスト教側の呼称で、ユダヤ教ではこの聖書が聖書そのものであるため、近年では『ヘブライ語聖書』と主に呼ばれる。
[4] “Blue Letter Bible: Bible Search and Study Tools,” Blue Letter Bible, accessed January 13, 2026, https://www.blueletterbible.org/.
[5] “Romans 5 (KJV) - Therefore being justified by faith,” Blue Letter Bible, accessed January 13, 2026, https://www.blueletterbible.org/kjv/rom/5/1/t_concir_1051001.
[6] “Romans 5 (KJV) - Wherefore, as by one man?,” Blue Letter Bible, accessed January 13, 2026, https://www.blueletterbible.org/kjv/rom/5/1/t_concir_1051012.
[7] “G3056 - logos - Strong's Greek Lexicon (KJV),” Blue Letter Bible, accessed January 13, 2026, https://www.blueletterbible.org/lexicon/g3056/kjv/tr/0-1/.
[8] Bible Hub: Online Bible Study Suite https://biblehub.com/.
[9] SBLGNT は、Society of Biblical Literature Greek New Testament(『聖書文学会ギリシア語新約聖書』)の略称で、学術研究に耐えうるオープンライセンスのギリシア語新約聖書校訂版テクスト。
[10] ネストレ=アーラント第27版。
[11] “Mark 16 Interlinear Bible,” https://biblehub.com/interlinear/mark/16.htm.
[12] United Bible Societies Greek New Testament(『聖書協会世界連盟ギリシア語新約聖書』)の略称で、この第4版の本文はネストレ=アーラント第27版と同じだが、欄外注が翻訳する際に重要となる異読に絞っている点で、異読情報が詳細なネストレ=アーラント版と異なっている。
[13] “Strong's Greek: 998. βοηθός (boéthos) -- Helper, aid, assistant,” Bible Hub, accessed January 14, 2026, https://biblehub.com/greek/998.htm.
[14] “Strong's Greek: 264. ἁμαρτάνω (hamartanó) -- To sin, to miss the mark, to err,” Bible Hub, accessed January 14, https://biblehub.com/greek/264.htm.
[15] 1843年から出版され、何度も版を重ねている A Greek–English Lexicon のデジタル版。 『リデル=スコット辞典』とも呼ばれる。最初の編集者であるヘンリー・ジョージ・リデルとロバート・スコットの苗字の頭文字と、後の編集者の一人であるヘンリー・スチュアート・ジョーンズの苗字の頭文字をとって、LSJ と呼ばれる。
[16] “Open Greek and Latin: Perseus Digital Library: Scaife Viewer,” Perseus Digital Library, accessed January 14, 2026, https://scaife.perseus.org/.
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《連載》「英米文学と DH」第13回

閑話休題:DH と教育(1)

橋本健広中央大学国際情報学部

前回は主に文学関連の DH の学術誌とさまざまな学術誌で取り上げられている DH 特集をみた。今回は閑話休題として DH と教育と題し、DH と教育にまつわる各種の話題を取り上げたい。この閑話休題は折にふれ取り上げる予定である。DH と教育といっても、DH における教育学や、DH を教科科目として教える授業実践、あるいは教育学や応用言語学といった他分野におけるコンピュータの DH 的な利用といったさまざまな領域が考えられるが、今回は時事的な関心を踏まえ、DH の中でも特に AI と教育に関わる内容を取り上げる。

AI と教育

AI という用語は、人工知能や機械学習や大規模言語モデル、あるいはより単純な処理などを含め、コンピュータにより何らかの入出力が行われる現象を指す時に用いられ、特に生成 AI を指して使われることが多い。

AI に対する DH 研究者や文学研究者の見方は賛成と反対の二つに分かれる。未来(future)と脅威(threat)、機会(opportunity)と危機(crisis)もしくは挑戦(challenge)、あるいは啓示(apocalypse)と救済 (salvation)といった二項対立的な二つの立場で表現されることが多い[1]。本稿では共同知(co-intelligence)ととまどいという言葉で示したい。共同知は、ホイト・ロングによれば現在アメリカで肯定的な立場で AI を考える時によく使われる考え方であり[2]、AI と人間の共生的なあり方を示す用語である。この共同知の具体的な意味をイーサン・モリックの『共同知』に依拠して説明すれば、共同知とは AI を支援的ツールとして用いた人間の活動である。AI は指示を与えられると半自律的に動くエージェントである。ただし AI の出力は、ハルシネーションと呼ばれる誤った出力をしがちであり、人間の価値と倫理基準、社会規範に寄り添い管理可能であるような責任と説明責任を必要とする。また個々人の期待に沿うような出力をするがゆえに常に批判的な目をむける必要があり、出力自体年月とともに大きく変化することに注意を必要とする[3]。このほかに、学習データ自体に人間のバイアスが含まれていること[4]、また人間は AI の出力に意味を与えるが、AI 自体には意図や意志はなく、AI の出力は単なる人間の言語に似たテクストの表出であり「確率的オウム」であることにも留意する必要がある[2][5]。いずれにせよ、共同知は人間を支援するツールとして AI を上手に使っていこうとする傾向のことである。

これに対し、本稿では否定的な見方全体をとまどいという用語でまとめた。反対の立場の人々の多くは、AI をどう取り扱って良いか分からず、技術の発展というエコロジカルな時代の流れを想定した場合、新奇の技術に慣れていない段階にあると考えることができるだろう[6][7]。本稿では、DH と教育に関する情報が多く、議論が活発なアメリカを中心に、現在どのような議論がなされているかを、アメリカを代表する人文学組織の一つである米国現代語学文学協会の機関誌 PMLA(Publication of Modern Language Association of America)[8]と、高等教育機関向けの業界紙である『ザ・クロニクル・オブ・ハイヤー・エデュケーション』[9]を中心にみてみたい。なお『クリティカル・インクワイアリー』[10]の関連する論文も取り上げる。ただし今回は字数の都合から PMLA と『クリティカル・インクワイアリー』の論文を取り上げ、学術的な領域における見解を概観し、次回『ザ・クロニクル・オブ・ハイヤー・エデュケーション』からアメリカの大学における AI の現状をみる。

アメリカの人文学における AI と教育

はじめに、共同知の実践としての AI の利用に肯定的な論文を三点取り上げたい。一つ目は、セス・パーローによる大規模言語モデルと人文科学についての考察である[11]。パーローは、AI により人間が人文科学の根本的な理解を深める必要性が出てくることを述べる。AI により一律に生成される文章の中で、何が人間的な価値があると言える良い文章であり、何がそうでないかを決定する必要が生じた。そこから、総じて優れた芸術はなぜ優れているのかという根本的な問いの再考が促されたという AI の積極的な意義を述べている。

二つ目は、思索的な DH 研究者であるアラン・リウによる「データサイエンスとポストリベラルアーツ大学」と題するポスト教育論である[12]。リウは、データサイエンス教育がリベラルアーツ教育の枠組みを保ちつつ二部構成で専門教育を編成している現状を鑑み、データサイエンスとリベラルアーツの両者の教育はどうあるべきかを両者の特徴を比較しつつ接点を探る。そして、合理的、解釈的、批判的であるリベラルアーツと確率的応用知を生み出すデータサイエンスは互いの良い部分を補いつつ融合することを唱え、ポストリベラルアーツカリキュラムを提案する。ポストリベラルアーツカリキュラムは職業意識やアクティビズムに根差した実践的な教育と、リベラルアーツが除外しがちな周辺との関連に焦点を当てる学術的な教育である。これまで、人文学の分野ではデータは権力を持つものの視点から収集され、選択され、使用されてきた。しかしながら、データサイエンスのアルゴリズム的手法を取り入れることで、複雑な現象は周辺や接点として視覚化されるため、周辺を顕在化することができ、データ活用の幅が広がる。リウはこのような形式の教育をポストリベラルアーツカリキュラムの例として挙げている。AI を利用することで人文学教育の幅が広がるという共同知の実践例と言えるし、同時に人文学教育における DH の意義を示してもいる。

三つ目はティモシー・ラキンターノとアネット・ヴィーによるライティングをテーマとする「AI と日常の書き手」と題する論文である[13]。生成 AI を用いた文章執筆により言語実践に構造的変革が生じ、執筆者の声が曖昧となった。しかしながら人間が自身で書く文章には依然として価値がある。構造的変化は生じたものの、教育としては利点がある。ライティング支援ツールは、英語非母語話者が受けてきた長年の差別を解消し、高等教育や政府など高次能力を有する場での英語の必然性に良い効果をもたらすという利点である。英語の文章の執筆においてはライティングツールという AI が共同知として効果を示す。

一方、とまどいからなる AI と教育に対する批判的な論考もある。PMLA から二つの論文を取り上げたい。一つ目は、マシュー・キルシェンバウムとリタ・ラリーによる AI を大学組織の脅威とみなす「AI とサービスとしての大学」と題する大学論である[14]。

キルシェンバウムは米国現代語学文学協会内の「MLA -CCCC 共同タスクフォース・ライティングと AI」グループのメンバーである。これは生成 AI の現状を把握し学生や研究者等への影響を調べる協会内の研究グループである。この研究グループによれば、生成 AI の登場により人文学の学問は大きく変わった。旧来の学者が行ってきた行為である批判は、データやツールや技術により歴史的、政治経済的で物質主義的なものへ、つまり生産や消費への批判なき確信に変わった。関与は教育と実践へ、つまり教育現場は作業とスキル習得に変わった。データは、著作権問題から生じる言語の囲い込みを契機として、オープンで透明なデータを求める方向に変わった。実験は新しい、具現化された知識形態へと、つまり人文学の研究課題、理論的洞察、美的カテゴリーといったものが機械学習や大規模言語モデルの分野で研究される必要ができた。評価は美学、批判的評価、実践的批評へ、つまり優れた出力とは何か、優れた文章の評価基準は点数化しうるかといったテクストの判断自体が再考されるようになった。専門職・管理職業務は教育研究向け新テンプレートへ、つまり大学における職務や自らの立場は大学再編の潮流によって決められるようになった。「ライティングと AI」グループによれば、以上のような変化が AI によりもたらされたとする。

その上で、キルシェンバウムとラリーは、AI の登場により言語の象徴的価値が減じ、大学が市場原理に対し脆弱になったと結論づける。大学は学位を提供する認証機関となり、講師、コンテンツ、学位を提供するサービスとしての大学へと変わる。代わって、ベンダーやプラットフォームなどの企業がインフラ、教育提供、サポートを行うようになり、ライセンス契約やサブスクリプション購入が促されるようになるという新自由主義的なとまどいである。

二つ目の批判的論文は、エデュアルド・レデスマによる「批判的 AI 研究と外国語学問領域: 何をなすべきか」と題する論文である[15]。批判的 DH 研究ないし AI 研究は、人種、ジェンダー、フェニミズム、階級、地政学的格差などの格差や、環境問題といった社会的問題を扱う学問領域である。AI は英語が支配的になるという有害な影響があり、これを増幅させることから、批判的 AI 研究に言語的多様性を加える必要があると述べている。AI が翻訳や英語への傾斜により外国語教育の存在意義を脅かしているというとまどいであろう。

以上、AI と教育に関わる共同知ととまどいからなる賛成反対の議論を見た。一般に技術は、鉛筆の例のように、社会に浸透し人々が当然そこに存在する空気のように感じるほど標準化されたものとなるまでには時間がかかる。携帯電話の例のように、登場により全てが変わりそれ以前の状態を想像できなくなるというエコロジカルな変化を経るには、人々がその技術に慣れるまでの壁を乗り越える時期があるのだろう。とまどいとはそのような新しい技術が社会に登場した変化の先駆けの時代に特有の反応かもしれない。次回は、閑話休題の続きとしてアメリカの高等教育の現状をみたい。

[1] 例えばテッド・アンダーウッドは未来と脅威、イーサン・モリックは啓示と救済といった用語を使う([3] p. 32)。Underwood, Ted. "AI Is the Future: Higher Ed Should Shape It." The Chronicle of Higher Education, November 4, 2025. www.chronicle.com/article/ai-is-the-future-higher-ed-should-shape-it.
[2] ロング, ホイト. 「文化的なエージェントとしての大規模言語モデル」. DHSS コロキウム: 「文学」を読む/書く方法: デジタルと世界文学シンポジウム講演. 名古屋大学, 2025年12月10日.
[3] Mollick, Ethan. Co-Intelligence: Living and Working with AI. Portfolio / Penguin, 2024, pp. 46–62.
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[15] Ledesma, Eduardo. "Critical AI Studies and the Foreign Language Disciplines: What Is to Be Done?" PMLA, vol. 139, no. 3, 2024, pp. 533–540. DOI: doi.org/10.1632/S0030812924000567.
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人文情報学イベント関連カレンダー

【2026年2月】

【2026年3月】

【2026年4月】

  • 2026-4-2 (Thu), 7 (Tue), 16 (Thu), 21 (Tue), 30 (Thu)
    TEI 研究会

    https://tei.dhii.jp/

    於・オンライン

Digital Humanities Events カレンダー共同編集人

佐藤 翔同志社大学免許資格課程センター
永崎研宣慶應義塾大学文学部/一般財団法人人文情報学研究所
亀田尭宙人間文化研究機構
堤 智昭筑波大学人文社会系
菊池信彦国文学研究資料館

◆編集後記

今月も、東京の一橋講堂でデジタルアーカイブ学会が開催されたり、香港ではデジタル・ヒューマニティーズ(DH)学会が開催されるなど、DH に関連する分野のイベントは引き続き盛んに開催されているようです。そして本日は、情報知識学会のフォーラムが大阪で開催されているはずであり、明日は人文科学とコンピュータ研究会が石垣島で開催されます。その後も、年度末に向けて様々なイベントが公開されていますが、さらに今後も色々な DH イベントの開催予定が公表されていくものと思われます。DH に関するイベントの最新のカレンダーは、グーグルカレンダーの形で公開されていますので、こちらの URL をクリックしてご自身のグーグルカレンダーに追記することができます。ぜひこちらをご活用し、最新の情報を継続的に入手できるようにしておいてください。

(永崎研宣)



 

ISSN 2189-1621 Published by: DHII